平行世界と、(52/64)


「君、君。大丈夫か?」

「………っ、あ………ここ、は……?」

「此処はもうすぐ戦場になる。危険だから早く逃げるんだ………これを」

男が少女に手渡したのは1枚の符。それをしっかりと握らせて、倒れていた少女を助け起こし一方向を指指す。

「この先に、数人の人がいる。多村という男に一緒に逃げるようにと言われて来た、と言えば逃亡先に連れていってもらえると思う。そこに居ればきっとしばらくは安全なはずだ」

「あの、あなたは……あなたは、逃げないのですか?」

「みんなが首尾よく逃げられるよう、俺は此処でミルフィオーレの奴等を足止めするのがお仕事。大丈夫大丈夫、俺強いから」

「しかし、それではあなたが………」

「いいんだ」

「!」

少女の言わんとする意味を悟って男はそれを遮った。しかし男のその一言で少女は全て理解してしまったのだ。

「…………いいんだ。俺は、もう長くないから」

「そ、んな………どうして、」

「仕方ないよ。合わないんだから……仕方ない。そろそろ敵が来る、君は早く行った方がいい………あぁ、でもその前に着替えた方がいいね」

「え………?」

「大きな帽子に、白いマント。ミルフィオーレの奴等が探してるのは君だろ?君の素性は聞かない。けど、自ら素性を明かしたりしない方がいいよ」

「どういう、ことですか?」

「そりゃあ大半の人間がミルフィオーレに人生も家族も何もかも滅茶苦茶にされたからさ。あれに対しいい感情を持ってる奴はほとんどいないよ」

「……………そうですか……」

「ほら、早く行きな。あ、そうだ……もし君が何処か此処とは全く違う場所で元気な俺に会ったらこう言っといて」

少女の目をしっかりと見て、男はこう続けた。

「『使いすぎるな』……ってね。じゃあ、頑張って逃げるんだよ?」




「―――――チョイスの会場であなたに会った時、とても驚きました。そして同時にあなたから受け取った言葉を、伝えなければと思いました」

「なぁ、ユニちゃん。確かに俺は合わないって言ったのか?それと使いすぎるな、って」

「はい、そうです。……ミルフィオーレの部隊を次々と壊滅させるその存在を白蘭は探し続け、ようやく突き止めた。しかし、その頃にはもうあなたは既に居らず他の平行世界でも………」

「だけど気になる点が出てくるな。俺って武器とか持ってなかったの?それにいざとなったらヴァリアーの面子に手伝ってもらうとかさ」

「いいえ、それはきっと不可能です。平行世界のあなたはヴァリアーの人間ではありませんでしたから」

あ、俺普通に平凡ライフ満喫してたのね。しかし本当に俺死んでたのか………うん、ユニちゃんの話からだいたい死因は把握出来た。『使いすぎるな』、ね。肝に命じておくか。つまるところ白蘭が俺のこと突き止めた時には既に俺は死んでて、他の平行世界においてもそれは同じだったってね。道理で俺の攻略出来てない訳だよ、まぁそらいない奴の攻略なんざ不可能だよなー。それに、戦う手段の限られてた俺の使う手は容易く想像出来る。きっと全員同じことやって死んだんだろう。

「ユニちゃん、ありがとね。正直言いづらかっただろ?」

「いえ、そんな………私は、何もしてません」

「そんなことないさ。あぁ、それとねユニちゃん。君1人が命を懸ける必要はないと思うな」

「!多村さん……気づいて、」

「何するか、までは分かんないけど。ただ今のユニちゃんの目は、命を賭して戦う者のそれだから………何となく、ね」

俺はそういう目をした人間を山程見てきたし、俺自身がそういう目をしていた時期もあったと思う。でも何でユニちゃんが命懸けるんだったかなぁ………おしゃぶり云々だった気がすんだけど。

「………ありがとうございます。でも、これが私の使命ですから」

「そっか。んじゃ、これ以上口出すのは野暮ってもんだな」

俺の一存で彼女の覚悟ぶち壊すのは頂けないよね。それに明日の戦いでユニちゃんが命懸けなくていい展開に持ってきゃいいだけの話だし。それが超がつくほど難しいんだろうけどさ。






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