まるで打ち合わせしたかのよう(4/40)
そして、ざわめきの正体が姿を現した。
荒々しい靴音、肩から提げられた黒衣、襟足を彩る羽飾り。
その整った顔の眉間に皺が寄せられ、濡羽色の髪に紅蓮の瞳が映えていた。
この人物が誰か、など愚問である。何故なら、誰なのか一方的にとは言え知っているからだ。
「……………てめぇが、多村有人だな?」
(XAN、XUS……!!!どうして、此処に……?つーか何で俺のこと知ってるんだよこいつは!?)
謎。その一言に尽きた。そして、唐突に思い出されたのが昨晩の会話。
『ボスが君を連れてこいって言ってるんだ。悪いけどついてきて貰うよ』
(………………俺のっ!馬鹿ぁっ!!)
あの二人を動かせてボスと呼ばれる人物はどう考えても1人しかいない。
それでも自分が警戒をしなかったのは単に彼が自ら腰を上げ動くとは思えなかったからだろう。
しかし、現に彼は己の目の前にいる。嫌な誤算である。
そう思考を巡らせていればツカツカと更に歩み寄られる。
軽く結界擬きを張り、ある程度の戦闘が出来る状態にする。
ドアも窓も開いてるから逃走経路も確保可能。
気づかれないよう脚に力を溜める。
戦う意思も姿勢も感じられないが、念のため。
てか戦いたくないな……此処で戦闘始まったら今までの俺の苦労努力全部パァじゃねぇか………。
そしてとうとう、目の前に彼がやって来た。
憮然とした表情のまま銃を構えるでも掌に炎を灯すのでもなく、
ひょいっ。
「………………………は?」
XANXUSが伸ばした手は軽々と持ち上げ俵のように担ぎ上げた。何を?俺を。
腹部が圧迫され、背中にはその逞しい腕が回されていた。本当にどうなっている?
と言うか、何故俺は持ち上げられてんの?
「……………………おい」
「ハッ!此方が多村めの鞄になります!」
「多村の上履きは此方でお預り致します」
低い声でXANXUSが岡本達に声をかける。
そして俺の鞄をズズイッと差し出し、井上は上履きを取る。つーか待て。
「……………オイ。お前等何当然の流れのように俺を売ろうとしてんだ」
そこは颯爽と、じゃなくてもいいから俺を助けようと「何処に連れていくんだ!」とか聞いたりするもんじゃね?
「バッカお前そりゃこのお方に逆らっちゃダメだろうよ。王様が服着て歩いてるようなもんだろ見りゃ分かるだろ」
「ぶはっ!分かってんじゃねーか」
「ははーっ!ありがたき幸せ!!」
「ふざけんなあ!!」
「まぁ落ち着けよ多村。いいか?お前1人の命で全校生徒及び職員が助かるんだ。安いもんだろ?」
「尊い犠牲ってヤツだな!所謂スケープゴートみたいな」
「ここ試験に出るぞ」
「お前等マジぶっ飛ばすぞ!俺の人権まるっと無視かぁ!!」
こいつ等本当にふざけてんだろ!普通友達贄にするか?!……そういや、何でXANXUSは俺が此処にいるって知ってんだ?超直感?
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