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「もし、本当に悪魔を助ける気があるのなら、飼い主を殺すべきなんだ。そうしないと、使い魔は自由にならない」
真面目なトーンで彼は言う。え、と満は固まった。もしかすると、満が殺されていた可能性もあるということなのか。
「そんな変な奴いないだろうけどなー」彼は一転、のんびりした口調で続けた。「抵抗されるだろうし」
それに、と彼は言葉を続ける。のんびりした口調だがふざけているようには見えなかった。
「契約不履行の罪は重いんだよ」
満は再び首を傾げた。さっきからわからないことだらけだ。そんな満に、高山は意に介した様子もなく説明を続ける。
「誰かの契約を解除するなら、ちゃんと責任持って自分で契約をし直しなさいってこと。切るだけ切って、自由になった悪魔を食うっていうのはルール違反」高山はステーキを平らげてしまう。
先程と同じように、やはりこういうものも「わかる」ものなのだろう。悪魔は精神に重きを置く、人間とは全く違う生き物だ。同じような見た目で、同じような体であっても、根本的に中身が違う。
「まあ、さっきの場合は仕方がなかったんだけどな」
言い訳じみた様子で高山が口を開いた。いつの間にか皿はすっかり空になっていた。満が聞き返すと、はぐらかすように高山は水を飲んだ。続いて、ふーっと長い息を吐く。
「あの女の子は騙されてたんだ。で、好い様に操られてた。仕方がなかったんだ」どこか自分に言い聞かせているような口調でもあった。
「何か、私も好い様に扱われている気がする」ぼそりと満は呟いた。高山は勝手に行動しすぎだと思う。
「何で? いい点数稼ぎになっただろ」得意げに彼は言う。
「逆に減点されてるんじゃないの。余計なことをしたーって」満としては、怒られても仕方がないと思っているところだ。
「いや、絶対役に立ってるって!」子どもみたいに彼は宣言する。その言葉の端々に、褒めろという言葉が込められている気がしたが、満は気付かなかったことにした。
「ああうん、そっか」適当な返事をし、満はプリンを口に入れた。
今更何を言われても扱いに困るだけだ。本音を言えば彼の存在自体が余計なのだが、さすがにそのことは言わなかった。それくらいの分別はわきまえている。
「ねえ、何で、私は契約させられたの」プリンをスプーンですくいながら問いかける。少女も近いことを言っていたな、と思った。
「恋だよ、恋。むしろ愛」
へらりと彼は笑う。満は思わずげんなりしてしまう。ついていけない。スプーンからプリンが零れた。
end.
*
再三ボツになりながらも、折角こんなに書いたのに、という悔しさから掲載した作品。