「誰に向かってそんな口を利いてるんだ?」
人が無抵抗に蹴られている。四角い機械に彼が背中をぶつけても尚男は彼を蹴っていた。彼と男は同じ顔をしていた。違うのは目の色だけ。しかしそこには目の色以上にれっきとした差が存在していた。命令する者と命令される者。兄弟なのに、そこには優しさも慈しみも、勿論愛情など少しも見えなかった。
ガスパールが体を折り曲げて床に倒れる。荒い息遣いが離れたここでもわかる。機械だらけの灰色の部屋が赤く染まっていくような気がした。ルイはそっと自分の胸元にある石に服の上から触れた。わずかに熱い。
ひどい。不意に言葉が零れていた。ガスパールを見下ろしていた茶色の目がちらりとこちらを向く。ルイはぎゅっと服を掴んだ。冷たい目がこちらを見ている。嘲笑っている。愚かだと、ルイをガスパールを蔑む目だった。黒い服に身を包んだジェラールは、白衣を着ているガスパールと対照的に見える。同じ顔をしているのに全く違う別の存在。それは当たり前のことだ。だがそれでも、ここまで似通わないのもどこか気持ちが悪く思えた。
男はふっと彼に視線を戻した。
「ガスパール、返事は?」
銃が彼の頭を狙っていた。床に崩れた彼は起き上がらない。わからない。わからない。わからない。どうしてこんなことになっているのか理解出来ない。彼はずっと敵だと思っていたのに。それが今ではルイを助けここから逃がそうとまでしてくれた。そして今度は、彼が同じ顔をした男に狙われている。
びしり、と鋭い音と共に部屋中の機械にひびが入り出した。部屋を取り囲むように存在していた灰色の機械たちがゆっくりと崩れていく。不意に、逃げて、と隣からか細い声が聞こえた。
「逃げて、下さい」
隣で黙っていた女の子がルイの手を掴んだ。冷たい感覚に戸惑う。赤い髪をした女の子は真摯な表情をしてルイを見つめていた。あの人はそれ願っているから、だからルイを逃がすのだと言う。
「でも、それじゃ」
「あの人はまだ殺されない。だから、逃げて下さい」
あなたは殺されてしまうから、と彼女は言う。自分を逃がそうとして傷付いている人がいるのに逃げていいのだろうか。わからない。自分は一体どうすればいいのか。正解は何なのか。
銃声が聞こえた。隣の女の子がくたりと床に崩れる。ルイの手を掴んでいた彼女の手が力無く床に落ちた。赤い髪がふわりと床に広がる。
「アイリーン!」
彼が叫ぶ。彼女が人間のように見えた。精巧に作られた機械だとわかっていても、感情は上手く制御出来ない。
風切り音が響く。音のした方を見れば、ガスパールがジェラールに斬りかかっていた。ガスパールは立ったままだが、白い光が空間を薙ぐ。しかしジェラールは事も無げに一撃をかわし、ガスパールを蹴り飛ばしていた。
「どうせここから出ても生きられない癖に」
機械の山に倒れ込む彼をジェラールは見下ろす。胸が痛い。ルイは体を丸くするようにうずくまった。痛い、痛くてたまらない。
何かが破裂する音がした。