屑と化した機械たちの中に彼は立っていた。建物を余裕で包囲出来るほどいた機械たちはもはや物言わぬ屑となって彼の足下に転がっている。それは、どこか人間の死体に似ていた。人間のような顔をした、しかし全く違う存在が尽く二つに斬られて倒れている。
 機械は血も涙も流さない。彼は無言で足下の機械たちを眺めていた。泣いている。もしかしたら、自分では泣いていると知覚していないのかもしれない。心を失ってしまったかのように、彼はぼんやりとその場に立っている。まるで彼自身も、ただ命令を待つだけの機械となってしまったかのようだった。
「入りなよ」
 ルイはやっとのことで声を絞り出した。いくらほとんど日が射さない路地裏とはいえ、彼が外に出ているのは好ましくないように思えた。彼は顔を上げない。
「……アイリーンは、死んだ」
 ルイは頷いてやることしか出来ない。ルイに彼の気持ちを汲み取ってやることは出来ない。かつて彼と共にいたときの彼女をルイはあまりに知らない。それでも、彼女がとても彼を大切に思っていたことだけはわかる。
「俺が殺した」
 彼はじっと足下の機械たちを見つめている。涙が頬を伝っていく。彼は静かに泣く。ルイは何も言わなかった。何を言っても彼の思いは揺るがない。何も言えなかった。
「大切だったんだ、これでも」
 本当は彼女を置いてタワーを出たことを彼が悔いていることは知っていた。それが彼の選択だった。その選択に対し返ってきたあいつからの答えが、彼女だった。外見は同じでも中身の違う彼女は一度も彼を彼として認識しなかった。どうしようもなかった、仕方がなかった。そうだとわかっていても、そんな言葉では彼を納得させることも慰めることも出来ない。
 ふっと彼が自嘲気味に笑った。真っ直ぐな黒髪が揺れる。冷たい風が吹いていた。
「機械でも、人間じゃなくても、それでも」
 なおも言い募ろうとする彼を遮って、ルイは一言だけ口にした。
「ごめん」
 彼がゆっくりと顔を上げた。涙が一筋流れた。その顔には戸惑いと猜疑と悲しみが浮かんでいる。
「それをさせたのは私たちだから」
 ルイは右手を握り締めた。彼女が大切だとわかっていて、それでも彼にそうさせたのは自分。紛れもなく、無力な自分が彼にそれを強いたのだ。
 彼は何も言わなかった。ただ静かに目を伏せた。

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