手と手

 初詣に行こう、と誘われた。

「あけましておめでとうございます」

 ぺこりとお辞儀をした。約三日振りに会った大野は大して変わった様子もない。それはそれでつまらないかもしれない。優姫はどことなく違和感を感じながら大野を見つめてみた。別にそんなに変わった様子もないし、服だって言ってしまえば見慣れたものであるのに、何故違和感を感じるのだろう。よくわからない。何だか、大野と外に出歩くというのが新鮮に思えた。まるでデートみたいだ、いやデートなのか。普段あまりにも一緒にいることが多いから、久し振りに会うと逆に違和感を覚えてしまうのだろうか。

「ヒメ、はい」彼がぽんと頭の上に何か置いた。ずり落ちてしまう前に優姫は慌ててそれを取る。可愛らしいラッピングのされた袋だった。中にはクッキーが入っている。

「お年玉」

 彼はにっこりと笑って言う。透明な袋の中には兎の形をしたクッキーがいくつも入っている。どれも綺麗な狐色をしていて美味しそうだった。思わず笑みが零れた。実家に帰っていた間にこんなことをしていたのか、と少し大野が可愛く思える。

「ありがと」と言ってから、優姫はふと思い出す。右手に持った紙袋がかさりと音を立てた気がした。

 どきどきする。意味もなく、慌てる。わたわたしながら紙袋を彼に押しつけた。大野はきょとんとして紙袋を見ている。受け取れとばかりに優姫は無言でもう一度紙袋を彼に押しつけた。がさがさと紙袋が音を立てる。やはり柄にもないことをするものではない。優姫は恥ずかしさで今にも走り出したい気分だった。

「え、これは」大野が言うのを優姫は慌てて遮る。「頑張ったの、私にしては!」

 大野は不思議そうに紙袋を一瞥して、それから優姫に視線を向けた。恥ずかしさに耐えられない。優姫はふいっと顔を背けて、ざくざくと歩き始めた。どうしようもないので大野の腕を引っ張って歩く。大野の顔が見られない。

「ヒメ、毛糸的なものが入ってるんだけど」

 歩きながら大野が言う。少し揶揄するような声音に感じるのは恥ずかしさのせいなのだろうか。優姫はまっすぐに正面を向いたまま歩く。返事はしない。

 クリスマスプレゼントに向けて頑張って編んだものの間に合わなかったのだ。大野はきちんとプレゼントをくれたというのに。それ故、年が明けた今頃に渡すという後ろめたさのようなものを感じて仕方がない。編み物なら上手く出来ると自信をもって挑んだが、いかんせん時間が足りなかった。綺麗には出来たのだが、もともとプレゼントは貰う側で「渡す」ということが恥ずかしくもあった。

 不意に、大野の腕を掴んでいた手が解かれる。次にひやりとしたものが触れて、ぎゅっと手を掴まれる。大野が隣に並ぶ。横目で彼をちらりと見て、優姫は視線を正面に戻した。大野は楽しげに笑っている。

 頭上で、小さく「ありがとう」と聞こえた。顔が綻ぶ。優姫はマフラーに口元埋めるようにして、えへへと笑った。

「さ、行こう」

 大野が手を引く。これはまるで恋人同士みたいだ、と優姫はぼんやり思う。嬉しい。優姫はぎゅ、と手を握り返した。


end.

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