似合わなくても
人間、頑張れば何とかなるものだなあと思った。早朝午前五時半。さすがの彼もまだ起きていないだろう。起きていては困る。そのために目覚まし時計を準備して、携帯電話のアラームの機能も用意したというのに。優姫は気だるさを覚えながらも起き上がった。そろそろとベッドから這い出す。
五月五日午前五時。比較的「五」が揃っている。寝間着のまま、優姫は机上にある大きめの袋を手に取った。この柔らかな袋は、昨晩せっせとラッピングしたものだ。薄いピンクを基調としたチェックの袋に、真っ赤なリボン。何とも可愛らしい包装だ。うっかりラッピング用の素材を買い忘れてしまったのである。これは、とても男の子にあげるプレゼントではない。優姫は袋をそっと上下に振ってみた。微かにかさかさと音がする。優姫は思わず顔が綻ぶのを感じた。いけない、と気を引き締めてみる。
自分の顔と同じくらいの大きさであろう袋を抱える。意外と重い。しっかりとした重みに、少しだけ顔が熱くなる。我ながらいいプレゼントを思い付いたものだ、と自画自賛してみる。きっと喜んでくれるはず。寝起きだからなのか、いつもよりも思考が緩んでいる。柄にもないことをしている、と頭の片隅で声がする。
そろそろと音を立てないように部屋を出る。廊下は静まり返っている。リビングからすうっと透明な光が射し込む。優姫はぺたぺたと慎重に向かいの部屋へ向かった。そーっと物音に気を付けて歩く。ここで彼に気付かれたらおしまいだ。来年までこの計画は持ち越しになる。いや、そもそも来年までこの関係は続いているのか? 何を考えているんだ自分は。慣れない早朝だからか、思考が錯綜している。
扉の前に立つ。焦げ茶色で何の変哲もない扉。この部屋の向こうは、今のところ彼の部屋となっている。優姫はきゅ、と袋を抱き締めた。ぐ、と袋が音を立てる。慌てて力を緩める。包装を整える。
何をしているのだろう、自分は。寝間着のままで、寝癖も直さずに、彼の部屋の前に突っ立って。その上、こんなものを大事そうに腕に抱えている。およそプレゼントには向かない代物を可愛らしくラッピングして、少しときめいてしまっている。頭はどんどん冷静になっていく。脳内が冷えていく。
優姫はわたわたと袋を床に置いた。ここに置いておけば気付くだろう。袋を扉に立てかけるようにして、満足して見下ろす。うん、大丈夫だ、きっと。袋の口をしっかりと結ぶ赤いリボンは緩やかに垂れ下がっていた。リビングから射し込む光が、リボンにきらりと反射している。
彼はきっと喜んでくれる、はず。
季節外れのサンタクロースはこんな感じかもしれない。今一度袋を確認してから、優姫はもう一眠りしようと自室に帰った。
end.