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「いりません、結構です」

 えー、なんて子どものように遠野が膨れる。ひなたといえば、クッキーやマフィンといった、ショーケースには置かれていない少し日持ちする食べ物を整理していた。

「俺の自信作なのに!」

 その手には、白くて赤いぐるぐるが描かれた飴――正確な名称を知らない――が握られている。遠野はひなたの目の前でひらひらとその飴を振ってみせた。

「大体、そんなものどうやって食べればいいんですか」

 子どもが憧れるような食べ物だ。それはわかる。わかるが、掌ほどの大きさの飴をどうやって食べきればいいのだ。りんご飴にだって苦戦するというのに。

 遠野が相変わらずのきらきらした目で言った。

「頑張って食べるに決まってるじゃないか」
「そうですね。訊いた私が馬鹿でした」

 もう何でこんなところで働いているのだろう。それには深い理由があるのだが、思い出したくない記憶なので封印しておくことにする。後悔。そう、それを人は後悔と呼ぶ。

 人の話を聞いているのかいないのか、遠野はぺりぺりと飴の包装を剥がしていた。もう勝手にやってくれ。ケーキの仕込みはどうなったんだ、なんて訊いてはならない。その時になればケーキは遠野の元へ現れる。昨日はチーズケーキがよく売れた。いつ焼かれているのかは知らない。遠野の行動はいつだって謎だ。

「はい、高木さん」

 え、と顔を遠野の方に向けてしまった。えいっと飴を口に突っ込まれる。ひなたは慌てて飴を取り出した。口の中が甘い。味がよくわからない。とにかく甘い。

「何するんですか!」

 思わず持っていたクッキーの袋を振り回してしまった。慌てた様子の遠野にさすがに止められる。クッキーが虚しい音を立てた。がさがさ。何故か切ない。

「でも甘いでしょ?」

 へらりと遠野が笑った。ひなたは何も言えない。何を言っても無駄だ。ただ、口の中の甘さに顔をしかめた。甘過ぎる。


*拍手のお礼でした。

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