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7.ずっとそばにいたいのに
「言い訳くらい聞いてやるアル」
劉くんが腕をくんで私を見下してる。
見下してるって言っても2m越えの劉くんは座ってても私より勿論座高が高いわけで物理的に!見下されてるだけだと思いたかったけどやっぱり精神的にも見下されてるというかめっちゃ睨まれてる!!
「えーと、サボってごめんね?」
きっと劉くんは私が午後いなくてからかう相手がいなくなって寂しかったんだろう。
可愛いやつめ!
「違うアル」
ーと思ったが違うようだ。
「...何かあったら俺に言うように最初に言ったアルよ」
そういえば氷室くんと付き合った次の日に劉くんに言われた気がする。
何かって、そうかぁ。
劉くんは最初から気づいてたんだね。
だけど私が傷つけないためか、
氷室くんを悪い奴にしないためか、はたまた両方か、劉くんは優しいから黙ってたんだね。
けど、私は氷室くんに利用されてるだけだとしても氷室くんを悪い奴になんてしないから大丈夫だよ、劉くん。
悪い奴、は利用されてるのを知ってるくせに、何も知らないフリをして氷室くんの隣にいようとする私の方なんだよ。
「何かってー?ただ昨日はちょっと体調が悪くなった所を福井さんが見つけてくれて寮に帰っただけだよー!私がサボりたかったーっていうのもあるけどねー!」
ごめんね、劉くんは優しいのに。
けど私はあくまでも何も気づいてない子を演じていたいんだ。
最期の時までは、何も知らない大好きな彼の、幸せな彼女でいたいから。
「...じゃあなんで泣いたアルか、目が赤い。」
朝は寝坊したからと嘘をついて氷室くんと登校しなかったし、
目が腫れたのは化粧で隠したつもりだったけど、まさか劉くんにバレるとは思ってなかった。
昨日泣いたのは私だけの秘密、でいたかったんだけどな。
「あっれー、バレた?実は昨日、早退してちょっと寝たらすぐ治っちゃって暇だったから映画みてボロ泣きしちゃったー!」
私はあくまでも嘘を押し通す。
劉くんはきっともう全部気づいちゃってるのに。
「私がサボったのバレちゃうからみんなには秘密ね?」
氷室くんにバレたくないから秘密にしてね、お願いって意味も通じてくれたでしょ?
朝、あんな事があったから少しだけ劉くんといるのが気まずくてお昼ご飯を急いで教室で食べて昨日のお礼を兼ねて福井さんの所へ向かった。
「福井さん!」
「おー、おめぇは昨日の、」
「はい!昨日はありがとうございました!私、名字なまえって言います。これ、つまらないものですが、昨日のお礼です!」
福井さんにあげたのは安物で申し訳ないがコンビニで買ったクッキー。
昨日は見ず知らずの私を後輩の彼女、というだけで助けていただいて本当に助かった。
あの時助けてもらえなかったら一回殴られた程度じゃ済まなかっただろう。
「あ?別にいらねーよ、昨日のはお前が悪いわけじゃねぇだろ。」
「いえいえ!それでも私の気持ちなので受けっとてもらえませんか?」
「あー、じゃあさんきゅーな」
渋々といった様子で受け取って貰えたクッキー。
福井さんのお礼を買ってる時に自分のもの欲しくなったので買ったもう一箱は心配かけてごめんねって事で後で劉くんにあげよう。
「...人の恋愛に口出しする気はいつもならねーんだけどよ、お前、本当に氷室に言わなくていいわけ?」
言う、とは勿論昨日の事である。
「いいんです、私なら大丈夫ですから!」
「けどまた昨日みたいな事があったらお前どうすんだよ。昨日は俺が見つけたけど、下手したらあのままもう一発くらい殴られてたかもしれねぇんだぞ」
「はい、ありがとうございました。けど、もう大丈夫です。」
ニッコリ笑って福井さんの方を見ると福井さんは苦虫を潰したような顔でこちらを見てくる。
まだ何か言いたそうにするので無理矢理”それではありがとうございました!”と言ってこの場を去る。
このお昼休みで私はもうひとつ、やらなくてはならない事があるのだから。
「先輩、明日のお昼、少しだけ私に時間をいただけますか?」
お互い、これで終わらせませんか?
木曜日、男バスはミーティングだけ。
待ってるから一緒に帰ろ!って氷室くんにお願いして今は教室でミーティングが終わるのを大人しく待っている。
氷室くんの彼女になって2週間。
喜んで、気づいて泣いて、ただ隣にいたくて、また泣いて。
沢山泣いたけどし、一緒にいられた時間なんて朝の登校の10分くらいのものだけど、幸せだった。
氷室くんの彼女になって気づいたこと。
氷室くんは最初は作り笑顔だったけど、1度心を開くと結構心から笑ってくれること。
作り笑いじゃない笑顔、とても綺麗だったなぁ。
あとは氷室くんは意外と手料理が好きなこと。
一緒にお弁当を食べる火、木、金。
2回目以降、お弁当を作っていってあげたら凄く喜んでくれて、それが幼い子供のようでとても可愛いかった。
そして、やっぱり氷室くんはとても優しいこと。
さりげない時に繋いでくれる手が、向けてくれる笑顔が、話してくれる声色が、私の心臓が止まっちゃうんじゃないかと思うくらい優しくて、かっこ良くて。
この2週間で有り得ないくらいに縮まった私と氷室くんの距離は、遠かったとき以上に氷室くんの事を好きにさせた。
結局氷室くんが私に”好き”だと言うことはなかったけれど、氷室くんがかなしそうな目をした時に私は”氷室くんの事、大好きだよ”って伝えると優しく笑ってくれるから、それだけで満足だったよ。
私のこと利用するだけなんだったらそんな悲しそうに愛しそうな顔しないでよって思ったよ。
だけど私が大好きだと言うと決まって優しい笑みで”ありがとう”と言う君を見たら全部許せちゃった。
「名字さん、待たせてごめんね」
「ううん!考え事してたから全然大丈夫!」
今はもう少しだけこの時間を楽しませてね?
「氷室くん!」
「ん?どうしたんだい?」
「大好きだよ!」
ずっとそばにいたい、
それが叶わないのなら今だけはその笑顔を私に下さいな。
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