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10.さようならの時間だね
氷室くんに治療もしてもらって、5限が始まるチャイムがなった。
氷室くんに申し訳ないと思いながら、5限はサボることにして屋上に行かない?と誘った。
「名字さん、「氷室くん」」
今度は私が氷室くんの台詞を遮る。
「あのね、何も言わないで聞いてね」
これが私の最後の我儘だから。
「私ね、氷室くんの事、だーいすきなんだ。どれくらいか、なんて聞いたら氷室くん驚いちゃうよ!
...だからね、分かるんだよ?大好きだから。」
君の表情の意味だって、嫌でも分かっちゃう。
何も気づかない、鈍感な子だったらどれだけ幸せだっただろう。
何回私がそう思ったことか。
「だからね、もうさよならしよう。無理に私に合わせなくてもいいんだよ!今までありがとう、バスケこれからもがんばってね。」
大好きだったよ、そんな思いをこめて笑顔を作る。
ちゃんと笑えてるか分からない、氷室くんの方だって見れない。
それでも最後は笑顔で終わろうと、そう決めてたから。
「じゃあね、ばい...」
ばいばい、と続くはずだった私の言葉は宙に消える。
「...氷室くん?」
氷室くんが私の腕を引っ張って抱きしめる。
「...やめて」
やめて、それ以上好きにさせないで、辛いのは私なんだから。
「...ごめん、沢山辛い思いさせて。ごめん、何も気づいてあげられなくて」
「も、ういいからやめてよ、離して」
涙がボロボロ零れていく。
やだ、氷室くんの前では泣きたくなったのに。面倒臭い子だって思われたくなかったのに。
「名字さんが好きだよっ...、」
「うそっ!」
「嘘じゃない。好き、なんだ」
「嘘だよっ、やめてよ。そんなこと、言わないでよっ」
これ以上私を惑わせないで、せっかくの私の決心、無駄にしないでよ。
「俺は名字さんが好きだよ。」
もう一度、今度は私の目を見て言う氷室くん。
氷室くんまで泣いちゃ、ダメじゃんかさ。
「..本当に?」
「信じられないかもしれないけど、本当に好きなんだ」
「...私は大好きだよ、馬鹿ぁ」
「うん、ごめん。ごめんね」
これまでたくさん泣いた。
きっとこれかも泣いちゃうことはあるんだろうね。
けど、これからは君が本当に側にいてくれて泣いちゃう以上に笑わせてくれるんだね。
スタートは間違っちゃったけど、確かにあの時から私たちの物語は始まっていたんだって。
それでね、これから先もずっと続いていくらしいよ。
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