小説 | ナノ
 君に触れられたところが熱くなった



starr☆sky












「おはよう!ナマエちゃん!」

「おはようございます、月子先輩」



弓道部の朝練が始まる前。
何時もの朝練は、部長が弓道場に1番のりなんだけど、その部長が今日は朝から委員会で来れないとのことで、私が1番のりだった。

そして次にいらしたのが夜久月子先輩。
学園で私を除くと唯一1人の可愛い女の先輩。
可愛くてかっこよくて努力家で、


少しだけ、私の苦手な先輩。



「またナマエちゃんの方が早かったねー、私も今日は早目に来たんだけどなー!」

「ふふ、先輩も十分早いですよ」


勿論、苦手だなんて言ったって普段はそんなこと全然無い。
むしろ大好きだし、先輩のことは尊敬している。


「おはようございます、夜久先輩」

「おはよう!梓くん」


そう、原因は木野瀬梓くん。

木野瀬くんは、月子先輩の射系を見て入部を決めた、という話はその日たまたま部活にいなかった私が口角をいやに上げた犬飼先輩から聞いた話だ。



そして木野瀬くんはわたしの好きだった人、だ。


好きだった人、実際はまだ好きな人。
だけど、過去形にしとかないと私は大好きな月子先輩に八つ当たりしちゃいそうで。

「先輩、今日もかわいいですね」
「あ、梓くんはそんな事ばっかり言って...!!」


ああ、イヤだ。聞きたくない。
弓道場から消えてしまいたくなる。
だけど体が重くて、その場から動けない。

「おはようございます」

「あ、宮地くん!おはよう」
「宮地先輩おはようございまーす」

「み、やじ先輩。おはようございます」


宮地先輩が来てこれ以上あの2人を見なくてもいいのか、という安堵や月子先輩への、私の汚い感情やらで言葉がつまった私。
どうやら月子先輩は気づいてないみたい、良かった。

と思ったら宮地先輩がこちらに近づいてきた。

「...ミョウジ、顔色が悪いがどうかしたか」
「え...あの...!」
「気分が悪いなら、保健室に行くか?」

宮地先輩が顔を覗き込んでくる。

「...だ、大丈夫です。」

精一杯のヘラッとした作り笑いを宮地先輩にむけて練習を再開しようと的に向かおうとした。

が、それは誰かの手によって阻まれた。

「...え?」

くるりと後ろを振り返ると真剣なちょっと怒ったような顔した木野瀬くん。
あれ、木野瀬くんは月子先輩と話してるはず...だったのになあ。

「宮地先輩、こいつ体調悪いみたいなんで保健室連れていきます」

「...え!?」

「ああ、木野瀬、頼んだ」












保健室までの道のりはお互い無言だった。
木野瀬くんがわたしの腕を掴んで、けど宮地先輩の言った通り私の顔色が悪かったのか、ゆっくり私に合わせて歩いてくれた。

「...あれ、星月先生いないのか」

まあいいや、と言って私に体温計を渡して測って、という木野瀬くん。

「ごめんね、木野瀬くん」

「なにが」

「朝練始まるのに、私に付き合わせちゃって...」

「別に僕がしたかっただけだから気にしなくていいよ。それに僕はミョウジが...'ピピピピ'...何度だった?」

「....」

確かに朝から体が重いと思ってたが本当に熱があるだなんて思ってもみなかった。
自分の鈍感さに絶句する。


「...38.9...です」

「はぁ!?よくそこまで気づかなかったね!?」

「...ごもっともで...わぁ!?き、きのせくん!?」

目を見開いて私にそう言った後、木野瀬くんはふわっと私を持ち上げてベットまで運ぶ。
ちょ、私、重いのに...!!


「はぁー」

木野瀬くんの溜息が保健室に響く。

「...ほんとうごめんね、きのせくん」

ベットに入ると熱のせいか、思考がふわふわしてくる。
はたして木野瀬くんに私の言葉は伝わっているのだろうか。


「きのせくん...ごめんね、」

きみの事、すきになっちゃってごめんね。

そう気持ちを込めて木野瀬くんに謝る。

木野瀬くんはわたしの頭をぽんぽんと撫でる。
木野瀬くんがあまりにも優しく頭を撫でるから、私もだんだん眠たくなってくる。






「おやすみ、ミョウジ。
僕はミョウジが、好きだよ」



君に触れられたところが熱くなった


(私が寝る直前に木野瀬くんが)
(好き、だと言った気がした。)


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