「当ったり前だよ、ばぁぁか!!」
緋色の欠片
「3年生は、初めましてじゃない子も多いかな?教育実習生のミョウジナマエです。1ヶ月間保健医の先生のお手伝いします、よろしくお願いします。」
「ナマエ先輩だ!」とか「あの人見たことある!」などと体育館内がざわつく。
その中でも一際目立つのは「はぁ!?」という小さな彼が発した大きな声。
校長先生の「静粛に!」という声に続き他の教育実習生たちも挨拶を始める。
教育実習生は3人。
みんなここの卒業生で、現在大学2年生。つまり今の3年生たちとは実際に学生時代から関わっている代で知り合いも多い。
...みんな良い驚きっぷりだなぁ!
* * * *
「よろしくお願いします、九瀬先生」
「久しぶりだな、ミョウジ」
保健医の九瀬先生。
この人はわたしが在学中から度々お世話になってきた先生で2年経った今でも変わらずに紅陵学園で働いてる。
「お前、誰にも教育実習に来るって伝えてなかったんだな」
「みんなの驚いた顔が見たくて」
「で?感想は?」
「最高でした!」
「特に在学中から可愛がってた小さな後輩くんとか?」
「ふふふ、昨日も電話した時に笑いを堪えるのが大変でした」
「カレシにくらい教えてやればいいのに」
小さな後輩くん、つまり先程一際大きな声を出していた鴉鳥真弘くん。
彼とは在学中からお付き合いをさせていただいてるが、今日まで教育実習生として来ることを伝えていなかったため大層驚いていた。
「これが狙いですから!」
「こーんな性悪女に振り回されて、鴉鳥も可哀想になぁ」
「性悪はちょっと酷くないですか?」
そんな話をしていると、急に保健室のドアがガララ!と開いた。
朝礼が終わり、もうすぐ1時間目が始まるというのに一体誰が...
「もう少し静かにドアは開けろよ、鴉鳥。」
「おい、ナマエ!」
目を釣り上げて全身で怒ってます!と伝えるかのようにわたしの名前を呼ぶ真弘。
「あ、鴉鳥くん!授業始まるよ?」
そう言うわたしを無視して、無言でわたしの手首を掴む彼。
「2時間目までには保健室に戻ってこいよ、教育実習生。」
そんな九瀬先生の声を背に保健室を出て廊下を歩きだす真弘とそんな彼に手を掴まれたわたし。
九瀬先生も、先生ならもうちょっと生徒が授業サボろうとするのを止めて下さいな...。
真弘に連れていかれた先は屋上。
「鴉鳥くーん。逃げないから手、離してくれない?」
無言で腕を掴んだままの彼。
「真弘、ごめんね?来るって言わなくて。」
...困ったなぁ。
さすがに真弘に授業サボラしてるのは罪悪感あるし、わたしも保健室に戻らなくてはいけないからあまり長い間だんまりを決め込まれると困る。
「まひ、「...ナマエ、俺は黙って教育実習で学校に来たことを怒ってるんじゃねぇよ。」」
「え?」
「教育実習でここに来たことを怒ってるんだよ!!」
「は?」
...まさかの根本的なところから否定!
「どうして?1ヶ月また会えるよ?」
「それは良いけど...っじゃねぇ!お前どれだけ!俺の学年の奴らが....を.....」
「...真弘?」
俯く真弘の顔を覗き込む。
わぁお、顔真っ赤。
「だ、か、ら!俺らが高1のとき、お前好きだとか言う奴らがいたから、お前がそういう風に見られんのが嫌なんだよ!!」
...これはヤキモチ、だよね。
「ふふふ、」
「...笑ってんじゃねぇよ」
あー、カッコわりぃ、ちくしょう。と言って頭をかく真弘。
「真弘。昔好意を寄せてくれてた子たちが居たとして、もしも今も好意的に接してくれる男の子がいたとするよ。
だけど、あの頃も今だってわたしが好きなのは真弘だよ」
顔を真っ赤にしてこちらを見る真弘。
「当ったり前だよ、ばぁぁか!!」 この反応がツボでまた彼が好きになる。