小説 | ナノ
わたしの嘘は通用しません



「お前、昨日何時間寝たわけ」

「へ?」












「葵さんって料理上手かったんスね!」
「ケーキ美味しかったです。」
「さすが七瀬だな」
「今度作るとき俺に言ってくれたら果物やるぞ!」




部員のみんなからコメントをもらって、今は宮地先輩との帰り道。

「やっとテストも終わって部活!って感じですね」

「あぁ、そうだな」

「先輩、今回もありがとうございました。毎回本当に助かってます。」

「俺がお前に教えることなんて少ないけどな」

「えー、それでも毎回助かってます」

「そうか」


少し笑いながらわたしの頭を撫でる先輩。

「子供扱いですか?先輩」

「お前の頭が撫でやすい位置にあんのが悪りぃんだよ」

「なんです?それ」

ふふ、なんて私の口から笑みがこぼれる。
子供扱いされるのにはちょっと文句があるけど、わたしは先輩に頭を撫でられるの嫌いじゃないから、こんなやり取りも嫌いじゃない。

なんて、いつものやり取りをしてちょっぴりホクホクする。

いや、してた。



「で、だ。」

「はい?」

「お前さぁ...」


そして冒頭に戻る、という訳です。


「で?何時間なわけ?」

「えぇ?べ、別に普通ですよ?」

「お前の普通は1時間睡眠なのかよ」

「もっと寝てます!1時間30分は寝ました!」

「1時間30分ねぇ...?」

「あ」


しまった。


「おっまえさぁ!」

「は、はい」

「俺に嘘が通用すると思ったのか?」

「い、いえ。思ってませんデシタ」

「あと1時間30分だと?1時間と変わんねぇんだよ!」

「え!変わりますよ!!」

うっせぇ!黙って聞いてろ!って言われて大人しく先輩の隣を歩く。
あのな...と先輩は呆れたように言葉を紡ぐ。

「俺は好きでお前の勉強みてんだよ。その礼っつってお前の睡眠時間減らすの嫌なんだよ。分かるか?」

「はい、すみません...」

先輩に怒られてちょっと落ち込む。
お菓子作りは好きな方だし、美味しそうに食べてくれる先輩を見るのが嬉しくて、つい夜遅くまで作ってしまうのだ。

「あー、お前、分かってる?」

「はい、『礼とか言って寝不足そうな顔晒すなめんどくせぇしうぜぇ、ぶっちゃけ迷惑だ。』って事ですよね、すみません...」

「そこまで言ってねぇよ」

ったく、世話の焼ける後輩だ、と蜂蜜色の髪の毛を掻きむしってから宮地先輩は言う。


「俺は別にお前の勉強見るの負担だとは思ってねぇ。さっきも言ったが自分の意志で、俺が勝手にみてんだよ。だから本来なら礼だっていらねぇ。けどお前がくれるって言うなら断ったりしねぇよ。だけどな、それで大事なマネージャーが倒れたりでもしたら困るんだよ。心配してんだよ、俺は」

分かったかバカ、といい私の頭を軽くはたく先輩の優しさに思わず涙が出そうになるのをぐっと堪えてわたしは言う。

「はい、けど私も先輩にお菓子食べてもらえるのが好きなので、これからは寝不足にならないように作ってきますね!」

「ああ、それなら好きにしろ」


(わたしの嘘は通用しません)


「七瀬!ケーキ美味かった。おやすみ」

「ありがとうございます。ふふ、おやすみなさい」


家に入る直前に宮地先輩に投げかけられた言葉が、他の人には失礼だけど今日言ってもらった”美味しい”の中で1番嬉しかった、なんて思った。






お菓子作りできるようになりたい。
いや、料理が出来る様になりたい。

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