クリスマス企画 ジンとユウヤVer. 1

※実験の後遺症(捏造)がまだ残っている設定なのでご注意下さい。

最近寒い日が続いている。どういうわけか、ジン君が僕とよく一緒にいてくれることが多くなった。今までは僕が起きるときにジン君はどこかに行ってしまって、夕方頃になると帰ってきていた。ジン君が言うには、学校で冬休みが始まったらしい。僕はまだ学校に行ける状態じゃないからジン君が学校に行っている間にじいやって人に勉強を教えてもらっている。勉強は楽しくないけれど、ジン君と一緒に同じ学校に行けるようになるために勉強を頑張っている。

僕は昔よくわからない実験をされ、脳に後遺症が残っているらしい。一つは記憶の一部が抜け落ちていることだ。僕はアルテミスで意識を失い、病院に運ばれた……でも、そのことは全く覚えていない。他にも思い出せないことがいくつもある。唯一覚えているのは小さいときにジン君と一緒に病室を抜け出して遊んだことだけだ。
もう一つは声を失ってしまったこと。人との会話はできないけれど、身振りでコミュニケーションは取れる。それでもなんとかジン君に自分の想いを伝え、恋人同士になれた。
でも、僕はジン君と一緒にいられる時間は限られている。ジン君は放課後に友達と遊んできて帰りが遅くなることもある。そのときはジャッジを動かしてバトルの練習をしたり、ジン君が帰ってくるまで寝ていたりする。
だからジン君と長くいられる冬休みは僕にとってのプレゼントなのかもしれない。

「ケーキとオードブルでございます」
部屋のドアが開き、誰かが入ってくる。知らない人の姿を見て、僕はジン君の後ろに隠れた。
「僕の家で働いていた人だ。悪い人じゃない」
僕はジン君の後ろからちらっと顔を覗かせる。コック帽をかぶった男の人が僕を見て微笑んでいる。その手には皿に乗った大きなケーキがある。山程の苺とその周りには生クリーム、字が書かれたチョコレートにクリームで作った小さな木が乗っている。
オードブルはクリスマスらしく赤と緑で彩られた食べ物が並んでいる。その横の皿にはリボンを付けた七面鳥の丸焼きがある。とてもおいしそうないい香りがする。
いつもよりももっと豪華な夕食だと思った。
「今日はクリスマスなんだよ」
クリスマス……そんな言葉を聞いたのは何年振りだろう。両親を亡くしてからは一度もクリスマスなんて祝ったことはなかった。それを、ジン君と二人で過ごせるのがたまらなく嬉しい。
「それではごゆっくりとお楽しみ下さい」
男の人は去っていった。
「今日は好きなだけ食べてもいい。足りなかったらまた作って貰うから」
そう言ってジン君は少しずつ料理を皿に取った。ナイフで切った七面鳥、ローストビーフに他にも色々。皿の真ん中には他の料理より少し多めに取られたカニがある。カニが好きなのかな……



料理もケーキも完食。ジン君があまりケーキを食べないからほとんど僕が一人で食べた。いっぱい食べてお腹いっぱいで僕は眠たくなった。眠たいけれどまだ寝たくない。それなのに僕は隣に座っているジン君にもたれかかってしまった――

――何だか左の頬が温かい。それでいてくすぐったい。僕はその感触で目が覚めると、左側を見る。
「!」
「……虫が付くといけないから拭いていたんだ」
ティッシュも布も持っていない手で拭いていたの、と聞きたくて僕はジン君の手を指差す。素手で拭いたならクリームくらいついていると思うけど、ジン君の手は綺麗なままだった。
不思議だと思い、僕はもう少し近づいてジン君の顔を覗き込んだ。顔にクリームがついている。さっきまで何もついていなかったはずなのに顔にクリームがついている……僕の寝ている間にケーキを一人占めしたのかな? 少しくらい僕に残してくれてもいいのにと思い、僕はクリームのついている所をぺろりと舐めた。
「……!」
僕が急に舐めたからジン君は驚いたように見えた。ジン君の頬についていたクリームは甘くておいしいけど、さっき食べたケーキのクリームと同じ味だ。僕はジン君の様子が可愛くてクリームがなくなってもしばらく舐めていた。
「も、もういいだろ……」
嫌だ、と言うように僕は首を振る。僕の舐めていた所はいつのまにか頬からもう少し顔の真ん中に寄っていた。ちょうど唇のある所まで。でも、歯が邪魔をして口の中まで入れさせてくれない。歯ぐきをなぞっていると僕は両頬に手をやられ、そのまま離される。
「ケーキのおかわりが欲しいのか?」
僕はケーキはもういらないことを示し、ジン君を指差す。ケーキよりも甘くておいしくて柔らかい頬だけでなく、もっと他の所も味わってみたい。なんて、ずっと前から思っているけれど、ジン君は僕の体を心配してまだ何もさせてくれない。
「運動は控えるように言われただろう?」
僕は退院してからも半年くらいは運動を控えた方がいい、と先生から言われた。リハビリで体力は徐々に回復してきているけれど、普通の人の体力と比べると僕のはまだまだそれに満たないらしい。
でも、無理そうだったらすぐに止める、と僕は伝えた。
「そう言ってバトルのときに倒れたのを忘れたのか? 悪い子はプレゼントを貰えないぞ」
退院してから僕はジン君にバトルを挑んだ。頑張って練習したからいい所までいったけれど、僕は興奮しすぎたみたいで意識を失ってしまったらしい。バトルですらこんな状態になる。だからバトルよりも体を動かすことは当分出来そうにない。僕は諦めて膝を抱えて座り直した。




「その代わりだが、見せたいものがある」
ジン君は僕の手を引いてどこかに連れていく。部屋を出てエレベーターに乗って着いたのは、お城みたいに豪華なバルコニーだった。大きな柱と細かい装飾がされた手すりがある。
「綺麗だろう? いつかユウヤにも見せてやろうと思ってたんだ」
僕はジン君の横に並んでバルコニーから外を見る。色々な色に輝く光が庭中に溢れていて、とても幻想的で綺麗だ。道に沿って立っている木々は青い光を纏い、トナカイやサンタ、ソリの形に光る置物がある。噴水の周りや庭の草花の上にも光が溢れている。そして庭の真ん中には大きなクリスマスツリーが光のグラデーションを輝かせている。
僕は両親の生きていた頃、クリスマスにトキオシアのイルミネーションを見に行ったことを思い出していた。そのときは人が多くてあまり綺麗な景色を楽しめなかった。
今日はジン君と二人きりでこんなに綺麗な景色を眺められる。僕のすぐ隣にジン君がいる、それだけでトキオシアの何倍も景色が綺麗だと思えた。
「今年はユウヤのために飾って貰ったんだ」
僕のためにジン君が魔法みたいに凄いことをしてくれた。ジン君は僕にいっぱい素敵なことをしてくれるのに、僕からは何一つ満足にしてあげられない。僕だってジン君が喜ぶようなことをしてあげたい。それでもジン君は僕が喜んでくれたらそれでいい、なんて言う。
「……どうだ?」
もちろん、最高に決まっている。クリスマスという特別な日にジン君と二人きり。しかもこんなに綺麗な景色が見られたから僕は嬉しくてたまらない。その嬉しさを表現するために僕はジン君に抱きつき、顔を埋めた。
「そうか、気に入ってくれたんだな」
表情も声の調子からも、ジン君は嬉しそうに思えた。庭からの綺麗な青い光に包まれたジン君はイルミネーションに負けないくらい綺麗で、僕はイルミネーションを見るのも忘れてずっとジン君を見詰めていた。

何か冷たいものが空から降ってきた。それはイルミネーションの青い光で輝く雪だった。僕は久しぶりに見た雪を手に集める。ふわふわとした手触りの雪は僕の体温ですぐに解けてなくなってしまう。それがとても儚くて何だか悲しく思えてくる。
雪が降り始めてから少したって遠くの空が光り、大きな音が聞こえてくる。二人で音のする方を見ると、大きな花火が上がっていた。花火を見るのも久しぶりで、昔に戻ったみたいだ。ただ違うのは僕の隣にいるのが両親ではなく、ジン君だということ。いくつもの小さい花火が上がり、その後に大きな花火が中心に現れる。赤や緑の花火が空いっぱいに広がり、現れた「Merry Christmas」の文字。
「ユウヤ」
僕が花火に見惚れていると、突然ジン君に名前を呼ばれて肩を引き寄せられた。花火が見えなくなるくらいまで顔を近づけられ、何か柔らかいものが僕の唇にくっついた。思わず目を瞑ると、ジン君の長いまつ毛が僕のまつ毛に重なった。
「ユウヤ、メリークリスマス」
今度は僕がお返しにジン君の両頬を持って口づける。花火の光と音は止まない。それどころかいっそう光を放っているように感じられた。夢のように綺麗な景色を背景に、僕とジン君は花火の音が鳴り止むまで深く深くキスをした。


花火の光も音も、もう消えてしまった。花火は消えたけれど、僕の心臓は花火の音のように大きく高鳴っている。
唇が離れた後、僕は手すりに片手を置いてイルミネーションの光に触れようとした。ここからじゃ届かないのはわかっているけれど、今の僕ならあの光に触れられるかもしれないなんて思って。
「あそこに行きたいのか?」
そう言ってジン君は僕の手を引いた。
もう一枚上着を着て二人で手を繋いでクリスマスのイルミネーションの光の下を歩く。僕の冷たい手をジン君がポケットの中で温めてくれた。絡めた指から伝わる体温と鼓動は僕とジン君が生きていることを教えてくれた。これから僕は誰にも何にも縛られずに生きていけるんだ。

雪を乗せた強い風が僕の長い前髪を揺らす。
「そろそろ冷えてきたな……部屋に戻ろう」
もう一度イルミネーションの方を振り返り、僕はジン君のあとをついて行った。エレベーターを下り、ジン君の部屋に戻る。テーブルの上の皿は全部片付けられていた。代わりに置かれていたのは大小合わせて十個以上はあるリボンの巻かれた箱。この箱は全部、クリスマスプレゼントだと思う。一番大きな箱の上には何か紙が挟まっている。外国語が筆記体で書かれていて僕には読めない。
「僕たちの所にも来てたみたいだな」
二人で順番に一つずつ箱を開ける。僕はクリスマスプレゼントの候補をいくつか紙に書いていた。それが、まさか全部来るとは思わなかった。僕がサンタさんに頼んだのは、ジン君とお揃いのコアパーツであるモーターのデビルテイルV3とバッテリーのデビルホーンX。それから新しいCPUのタイガーS500。僕のジャッジは剣を使うから剣の攻撃力が上がるCPUを選んだ。これで少しは強くなれたらいいな、と思う。
「もうこんな時間か……」
時刻は夜の十時を過ぎていた。もうそろそろお風呂に入って寝ないといけない時間だ。
僕たちはプレゼントをテーブルの上に戻してまずはお風呂に向かい、天蓋つきのふかふかのベッドに飛び込んだ。そこではどんなに目がさえていても、温かさと柔らかさといいにおいで心地よくてすぐに眠くなってしまう。
ジン君が僕の頭を撫でてくれた。僕は寝る前にもう一度キスしたい、と指を唇に当てる。僕はゆっくりと目を閉じた。
「お休み、ユウヤ――」


この幸せが来年も、それよりもっと長く続きますように――


2011/12/24

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