最終ラウンド。いつもと違う機体で戦いにくいが、俺たちは順調に決勝戦まで勝ち進んだ。
「やあ、やっぱり君たちか……さすが私の見込んだ可愛いメイドさんだ」
決勝戦の相手は、クイズのお兄さんと仲間が二人。一人は男の人でもう一人は女の人。
ステージ中央のDキューブに躍り出たのはグランドドリルIIを腕にはめたグリーンリボン、キングオベロンを装備したブルーリボン、メガデスランチャーを担いだレッドリボンだ。
俺たちも各自LBXを投下した。
会場中が湧き上がる。大歓声の中に聞こえるオタピンクへのエール。オタレンジャーたちがカラフルな四色のポンポンを持っているのが見えた。
「バトルスタート!」
俺とジンが前衛、オタピンクはZ=スプレッダーM2で後方からの援護射撃。ハンマーの攻撃を避けるのはジンとの練習でだいぶ身についた。上手く避けたとしても、ランチャーの地形を活かした死角からの攻撃が当たってしまう――相手は間違いなく強い。
「ランチャーのヤツは僕に任せろ! バ……ポチ君はハンマーの方を!」
「わかった!」
ジンの一撃でランチャーを持ったレッドリボンは沈んだ。残るは二体、ブルーリボンはファイタースピリットの構えを始め、すかさずアタックリキッドLを使った。グリーンリボンの姿は見えない。ブルーリボンの底知れない威力の猛攻に備え、俺はハルベルトガードを使う。
「後ろだ!」
オタピンクの使う、ビビンバードX-IVの腕をつけた赤いさくら☆零号機に、見えない影が迫る。
相手は接近戦を挑みにかかり、オタピンクのさくら☆零号機は武器をカミシロノコダチに持ち替えた。攻撃体勢に移るが、相手の方が一瞬速かった。インビジブルからのガトリングバレットが敵ながら見事に炸裂し、オタピンクのさくら☆零号機はブレイクオーバー。
「ポチ君、こっちは片付いた」
二対一、数だけ見れば俺たちの方が有利だ。しかし、三体ともかなり消耗が激しく誰が真っ先に倒れてもおかしくない状況だった。
「ポチ君、Xモードが発動するまで僕が援護する」
ジンはAモードを使い、後方からの援護に回る。突然光りだす機体にお兄さんは息を呑んだ。
「な……何だ!? いや、面白いな!」
グリーンリボンはナックルモードの武器腕を構える。お兄さんは笑っていた。
グリーンリボンが一気にジンのさくら☆零号機に詰め寄り、宙に打ち上げる。地に叩きつけられる直前に、追い討ちをかけるように気功弾が撃たれた。ジンのさくら☆零号機は青い光を放ち、そのまま地に横たわった。
「パワーアップに見せかけておとりだったとはな……」
「そろそろだ……後は任せる」
試合も終盤、とうとう俺とお兄さんの一騎打ちになってしまった。俺がXモードを発動すると、グリーンリボンは再び視界から姿を消した。インビジブルだ――Xモードの効果が切れた後に一発でも攻撃が当たれば俺も同じ末路をたどる。俺は目を凝らして近づいてくる影と砂煙を探した。
その間に何度も攻撃を受けるが、Xモードのおかげで近距離攻撃は効かない。それに気付いたお兄さんのグリーンリボンは、ランチャーモードに武器を切り替えた。
俺は最後の賭けに出た。
「カワイイからって甘く見るなよ!」
さくら☆零号機の右手にあるリタリエイターは閃光を宿し、超プラズマバーストをその影に向かって放った。姿が見えないとはいえ、正面から食らったグリーンリボンには一たまりもない。
「グリーンリボン、ブレイクオーバー。勝者……ポチ選手率いる萌え萌えピンクのメイド隊☆!」
会場の観客は一斉に大歓声と拍手をあげる。俺たちが勝った――
「完敗だ。私たち以外にこんなに強くて可愛いメイドさんがいるのには驚いた……」
俺はお兄さんと握手をした。


◇◆◇◆◇◆


「最終ラウンドが終了しましたので、集計を始めます。参加者の皆さんはそちらで待機して下さい」
俺はみんなの待つところへ戻った。仲間と近くにいた他の参加者たちが俺の元に集まってくる。
「さっきのバトル凄かったよ!」
「私も戦いたかった〜!」
たくさんの人の中から俺はジンを見つけて駆け寄る。
「信じていたよ」
思わず抱きつきたかったけど、みんなが見ているのでやめた。
クイズは高得点、実技も大絶賛を受け、バトルでは最後まで勝ち進んだ――
もしかするとこれは上位に入れるかもしれない。俺たちは結果発表のときを首を長くして待った。
「集計結果が出ました。五位から発表します。五位……」
まず、俺たちは五位ではなかった。五位のチームはまさか、というような顔で喜びを噛みしめている。
続いて四位と三位が発表された。残るは二つ、可能性があるならそのどちらかだ。
「二位、脅威的なLBXの知識で周囲を圧倒し、バトルでも絶妙な立ち回りを見せた……」
あのお兄さんのチームだった。賞状と銀色のトロフィーをお兄さんが受け取る。客席に向かってお兄さんは親指を立ててガッツポーズをとった。
「皆さんお待ちかねの一位の発表です。成績は全て優秀、特別審査員の好みを見事当て、いとも簡単に料理し、さらには本物のメイドと見紛うほどの完璧な給仕……バトルにおいては文句なしの最上級」
騒然としていた会場の空気が、一転して緊迫したものに変わる。みんなの期待が高まる。
「萌え萌えピンクのメイド隊☆、ポチ選手、匿名希望選手、桃たん選手!」
俺が代表で前に出て賞状と金のトロフィーを受け取る。そして優勝賞品の……



「こちら、優勝賞品のさくらたん添い寝シーツです」
「えええええええー!?」
さくらたん添い寝シーツ。シーツにオタクロスカラーのさくら☆零号機が恥ずかしそうにこっちを見ている絵がプリントされている。
「ポチ君、それこっちに投げて」
優勝賞品を見て混乱する俺にオタピンクが言う。俺は言われたとおりにそれを投げた。オタピンクはしっかりと受け取ると、それを特別審査員席にいるオタクロスに差し出す。
「取り返しましたから約束通りジン君との添い寝シーツの商品化企画を……!」
大歓声とともに会場の幕は下ろされる。何か聞こえたような気がしたが、周りがうるさくてよくわからない。
最初はどうなるかと思ったが、大会は大成功だった。知識とひらめき、料理の腕と速さ、完璧な礼儀作法に三人のチームワーク。俺たちの誰が欠けても優勝はできなかったと思う。


ジンと控え室に戻る途中、お兄さんから呼び止められた。
「良かったら私とこの後メイドカフェに行かないか? もっと君と話したいんだ」
お兄さんはじりじりと俺に詰め寄ってくる。メイド服を着たままの状態なので、少し怖い。俺は後ずさった。
「ポチ君、仕事だ。ご主人様に叱られる」
「え? 仕事? 何の……」
お兄さんから俺を突き放すかのようにジンは強引に俺を控え室まで引きずっていく。振り向くとお兄さんは仲間に肩をぽんぽんと叩かれていた。

「全く……君ってヤツは」
「俺が何かした?」
控え室でカツラを脱ぎ、靴下を履き替えてスカートの下からズボンを履いた。
「あの男、君に惚れていたようだぞ」
俺は座っていた椅子から転がり落ちた。その拍子で俺はジンを下から見上げるような体勢になる。
「な……なんで俺なんかに!?」
クイズでたまたま二人で盛り上がってバトルも最後は一騎打ち。関わった時間はほんの一瞬。他にもかわいい子がいっぱいいたのに……あんな格好をしてたけど俺は男だ。着替えてお兄さんに会ったら驚くだろうか、もしかしたらショック死してしまうかもしれない。
「まあいいか」
俺は起き上がった。スカートも脱ぎ、上着を着る。これで完全に男に戻った。
特に気になったわけではないが、ちらっとジンの方を見る。
「…………」
CCMを片手にジンはスカートのまま何かを考え込んでいるようだ。
「どうしたの?」
「いや……じいやからメールが来てな」
ジンにCCMの画面を見せてもらう。そこに書いてあったのは……
『じいやでございます。
アキハバラに向かわれたそうなので、もしやと思いテレビを拝見いたしました。
ジン坊ちゃまの良い社会勉強になられたと、じいやはとても感動し、涙を流しながらメールを打っております。
宜しければそのお姿を写真に撮って一枚頂けませんか』
「さっき僕と着替える前のバン君の写真を送らせてもらった」
すぐにカツラを取ったからたぶん控え室に入ってすぐだ。全く気付かなかった。変な顔してないといいけど……
「……そういうジンもこういうの、意外と好きだったりして」
「べ、別に好きなわけではない! じいやがくれと言ったから送っただけだ!」 
CCMの画面には、メイド服を着たジンの姿がまだ写っていた。


◇◆◇◆◇◆


後日聞いた話によると、業者にオーダーメイドした添い寝シーツが届いた日に、オタクロスはまたマスターキングにだまされたらしい。マスターキングに昼寝をするから少し下に敷きたい、と言われたオタクロスは汚さないことを条件にそれを貸した。
だが、数日たっても返って来ず、いつの間にかそれは大会の優勝賞品になっていたそうだ。それからオタレンジャーが相談し合い、大会に出ることに。
でも全員強制メイド服着用、顔面審査もありだと聞いた男性陣は即辞退し、唯一の女性であるオタピンクだけが残った。そこに偶然通りかかった俺たちが捕まった、ということらしい。

2011/10/22

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