おや、特別授業に来てくれたのですか。
いいですよ。「選ばれし者」の君には私の秘密をお教えしましょう。

……と、その前に、仮想国エゼルダームがどこにあるか知っていますか?
そうです。現実世界でいうセーシェル諸島――インド洋に浮かぶ115の島々からなる、海が美しい国です。私はそこで生まれ育ちました。
セーシェル・クレオール語の他に英語やフランス語が公用語ですが、君たちにもなじみ深い日本語をはじめ、世界の主要言語ならほとんど話せますよ。

以前にした私の授業を覚えているでしょうか。あれは、現実世界に目を向けさせるのが目的でした。
LBXでの戦争シミュレーションだけでは現実世界を見ていることにはなりません。
セカンドワールドは全く無意味なものです。現実の戦争に巻き込まれた人々は銃声に怯え、経済は混乱し、貧困や犯罪に晒され、歴史認識の違いから民族レベルでの軋轢が生まれます。
ウォータイムなどという戦争ゲームでは世界は守れません。戦争はなくなるべき問題ですが、人間、いや、支配者や国家が本能的に戦争を必要とするからです。
戦争は一握りの支配者層から生み出されます。彼らは人々を分断し、支配するために争いを起こす。その結果、普通の人々が犠牲となる。犠牲が大きければ大きいほど支配者は権力と財力を得ることになります。セカンドワールドではその点が考慮されていません。私はそう言いました。

世界平和の維持は建前です。セカンドワールドはユートピアではありません。支配世界の象徴、正反対のディストピア――日本語で言えば地獄郷、暗黒郷です。
君はあの世界を平等で秩序正しく、貧困や紛争もない理想的な社会と見るでしょう。しかし、実態は徹底的な管理・統制が敷かれています。自由なのは外見のみで、人としての尊厳や人間性が否定されています。
粛清、表現の自由の制限、格差社会、貧困の根絶に見せかけた隔離、市民階級の管理、産児制限、愚民政策……これらもまた、セカンドワールドでは再現されないディストピアにおける負の側面です。
いや、愚民政策に限ればこの学園の政策そのものかもしれませんね。LBXのような大衆娯楽で政治的関心――ここで言うセカンドワールドへの疑問を持たせないことで偽りの理想郷を作り上げているのです。ですからバンデット(暴力)を唯一の現実として送り込みました。

私の願いは世界が一つになり戦争がなくなること。そのためには支配による格差をなくす必要があります。敵に力があれば、それを超えた存在になればいいのです。それが私や瀬名アラタ、そして君のようなオーバーロードの使い手ということです。
オーバーロードには人類の未来を劇的に変える力があります。正しい未来を作る同志として力を使うことが覚醒した者の宿命です。

アポカリプスという言葉を知っていますか?
ワールドセイバーの理念にも繋がる重要な言葉ですから、覚えておいて下さいね。
アポカリプス、もしくは黙示、天啓――神が選ばれた預言者に与えたとする「秘密の暴露」や、「神による秘密の開示」を表します。
現実世界では善と悪が対立しています。現代は一部の権力者という悪が支配する時代であり、これに終止符を打つには、終末による悪の時代の終焉が必要です。預言者とは選ばれし者、すなわちオーバーロードが使える者を意味します。
私は預言者としてセカンドワールドの秘密を暴露したまでです。
……混乱しているみたいですね。簡単に言えば私たちはこの理念に従い、世界の終末とその後の再生を目指しています。世界はワールドセイバーの手によって生まれ変わるということです。


知っての通り、私はCCMなしでLBXの操作ができます。第三回アルテミスで灰原ユウヤが着ていたCCMスーツを常時着ているようなものです。
イノベーターと接触した際に拝借したものですが、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)という技術が使われています。
BMIは脳波などの脳活動を利用して機械を操作することを可能にします。その仕組みは脳活動に伴う信号を検知・解析する事によって人の思念を読み取り、機械への命令へと変換しています。
情報の流れが一方通行の片方向インターフェースと、相互疎通が可能な双方向インターフェースの二種類がありますが、私の場合、精度を高めるため双方向インターフェースを組み込みました。これは、脳とLBXとの間で情報を共有することにより、LBXと一体化することができます。デメリットとして機体が受けたダメージがそのまま体に伝わりますが問題ありません。要はダメージを受けなければいいだけです。
それからBMIには二種類あり、非侵襲式BMIと侵襲式BMIがあります。
私の場合、精度を高めるため外科手術により、脳に直接機械を埋め込む侵襲式BMIを利用しています。ちなみに非侵襲式BMIの場合、CCMスーツやヘッドギア等を装着するだけで手術の必要はありません。
オーバーロードや後に説明する人工臓器「オプティマ」との相性も抜群ですね。
オプティマは万能です。人工臓器といっても内臓以外に骨や皮膚にもなり得ます。
実際私は戦争で左手を失いましたが、オプティマによるエピテーゼ――欠損部位の修復をしています。思い通りに動かせるだけでなく、ちゃんと感覚もありますよ。内部のセンサーが触感や温度の感覚を神経系に送ることで本物と同じ感覚を再現しています。
……あまり言いたくはありませんが年をとると視力も落ちてくるものです。
義眼のカメラを網膜神経に入力することで視力を回復・強化しています。LBXとも同調させているので同じ視点から物を見ることもできます。

左手については先ほど話しましたが、この体もオプティマです。元の体は戦争でボロボロになりましたが、最先端のサイボーグ技術で蘇りました。
「義体化」など、SFの中での話だと思っているでしょう。いいえ、成功例はちゃんとここにいますよ。
機械の体ですが、ヒューマノイドとは違います。アンドロイドと言った方がわかりやすいでしょうか。四年前にミゼルが使っていた体や表向きにはされていないようですが、イノベーターの海道義光もその例です。そして、アルテミスの受付嬢も……あれは女性型なので正式にはガイノイドと言いますけどね。もちろん彼らは人間ではありません。
私は人間ベースの戦闘サイボーグ、とでも言いましょうか。ですから人間としての欲求やアイデンティティもありますよ。
さらに、この体には無限の可能性があります。ワールドセイバーでは兵士の身体能力を大きく強化し、手足を失った兵士に義手義足を適用することで素早い戦場復帰を可能とします。また、BMIを組み込めば戦車や戦闘機のような軍事ロボットの遠隔操作も可能です。
私の場合、脳と中枢神経以外全部――肉体の九割を機械化したことになりますね。さすがにここまでした人は今のところ私以外にいないようですが。
総括してトランスヒューマン――薬品や遺伝子操作、義体化による寿命の延長や肉体の強化、脳とコンピューターの接続……私は超越者として君臨するためにこうした科学技術を使用しています。
……何か言いたそうな顔みたいですが、脳や中枢神経以外「全部」と言ったら全部です。それ以上もそれ以下もありません。君のような年頃なら色々と興味を持つのはわかりますが……全く、ないと言っているでしょう。


そんなことよりオーバーロードの調子はどうですか。
念のため復習しておきますが、オーバーロードは発動時に瞳が光り、全てがスローモーションに見えることで反応が素早くなり、LBXと一体化した超高速な戦闘が可能になります。これは自己保存本能を無視し、脳を極限まで活性させ、潜在能力の全てを使っているからです。
理論上は訓練次第で誰でも習得できるとされていますが、脳へ過度な負担がかかるため、副作用として激しい疲労や精神崩壊の恐れがあることから世間では危険視され、研究も中止されています。

君や瀬名アラタは私と違い、天然のオーバーロード使いですね。全く、うらやましいことです。
伊丹キョウジですか。彼は元々素質がありましたので薬物投与や精神操作によって人工的に発動させました。本人は使いこなしているつもりですが不完全なものです。ですがあの猛烈な力や、銃弾の軌道が見えて避けられることからLBXの操作能力だけでなく自身の戦闘力も上がっているように思います。常時糖分を摂取させているので反動も少なくなったようですね。
それではもし君を戦場に送り込んだとしたら、実弾を避けられるでしょうか。おそらく軌道は見えても無傷でいられることはないでしょう。これは平和な世界で育った君と戦場で育った彼の経験の差です。
したがって、私はオーバーロードは使い手の個性で分化するという仮説を立てています。
彼はここに来るまでずっと本物の戦場で戦い続けていました。そのためLBXでのバトルだけでなく、より実戦向けの能力を身に着けたのだと思われます。
私はオプティマの体に人工的に組み込みました。彼と同様に戦闘も得意ですが、真の能力は秘密です。基本的に反動や糖分摂取の必要性はありませんが、能力を酷使するとオプティマが故障し、元の姿に戻るとの説明を受けましたがそれはないでしょう。
大空ヒロのことは知っていますね。ええ、ディテクターやミゼル事変での英雄として有名なオーバーロードの使い手です。資料によれば四年前から能力者として世界平和に貢献し、予知能力があると聞きましたが……いつか出会いたいものです。
瀬名アラタは君と同様に未分化ですね。発動したばかりなので心配することはありません。いくらでも可能性はあります。そう、この私を超えることもね……

いかがでしたか? 私の体や能力は一見めちゃくちゃなように見えますが、最先端の科学技術の結晶なのですよ。
さて、君の考えも決まったことでしょう。

2015/09/14

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