新年を迎えた神威島の商店街、抽選会場には今年一番の運を試そうと長蛇の列ができていた。
誰もが特等のアロハロア島ペア旅行券を夢見、願いを込めて抽選機を回す。列に並んでいる間に何度かベルは鳴るも、未だ特等を引き当てた者はいない。
貼り出された紙に書かれた景品の本数が減っていくにつれ、上位の景品が当選する可能性が少しずつ増えていく。だが現実はそう甘くなく、末等のポケットティッシュを袋に詰めて帰るのが大半だ。

そして今間近に迫る学園の新年会、アラタは率先して買い出しに出かけていた。何を隠そう目的は抽選会だ。予算の範囲で好きなだけ菓子を買い、運がよければ無料で旅行に行けるかもしれない……これは一石二鳥のチャンスなのだ。
「アロハロア島ペアチケットが当たりますように!」
第四回アルテミスが開催された地、アロハロア島。友人の古城タケルの姉、アスカが優勝した地でもある。かつて全世界が熱狂するほどのバトルを繰り広げた聖地の土を一度踏んでみたい。
抽選機の前で手を合わせ、気合いを入れてレバーを持つ。ここで深呼吸を一つ。
中身を揺らしながら早くも誰を誘おうか考えていた。同じ部屋で一番話す機会の多いヒカル、いつも世話になっている小隊長のハルキ、旅先まで愛機を持って駆けつけてくれたメカニックのサクヤ、世界を回る旅に同行させてもらったジンと今度は純粋に楽しむための旅行をする……などと、次々と仲間や恩師の顔が浮かんでは消える。できることなら全員を誘いたいのだが。
(いや、ここはあいつだ……)
親友が喜ぶ姿を思い浮かべまずは一回。
彼は多くの不可能を可能にしてきた男だ。無傷無敗の悪魔に傷を付け、時には倒したこともある。激しい戦いの中でオーバーロードに目覚め、ついには世界を救った。これ以上の不可能など何があるか。
会場にいる全員の注目が集まる中、玉が穴から出てくる。白だ。
「…………」
笑い声や落胆する声が聞こえたが、最初はこんなものだと気を取り直す。しかし、何度回しても出てくるのは白い玉ばかりだった。
「まだだ、あと一回ある……!」
奇跡は自分で起こさなければならない。今までもずっとそうしてきたならば、今回だってできる。いや、やるしかない。
集中するあまり無意識にオーバーロードが発動していた。白を中心とした玉の中に金色の玉が一つ回っている様子が浮かんでくる。それが消えたところで期待は確信に変わった。
穴から飛び出したのは陽を受けて黄金色に輝く玉。商店街中に響くほどにベルが大きく鳴り、思わずガッツポーズをして飛び上がる。
「これでムラクとアロハロア島に行ける!」
自分のことのように喜ぶ神威大門の生徒達が胴上げを始める。熱が落ち着いたところで係員が貼り紙を指差した。特等アロハロア島ペア旅行券の写真の横に虹色の丸が描かれている。
「残念、金色は一等だ」
「えーーーー!!」
祝福の中一等と書かれた箱を渡される。貼り紙を見れば最新型の電動マッサージ機だった。正直なところ三等の菓子詰め合わせの方がよかったかもしれない。


ひとまず景品の箱を部屋に置き、夜を迎えた。
風呂上がりにでも使ってみようとコンセントを繋いでスイッチを入れる。CCMのバイブよりも強力な震動が肩に伝わり、なんとなく疲れが和らぎそうな気がした。
そこにジェノックの仲間が集まってくる。生徒会や委員会、隊の問題児達との生活で一番疲れが溜まっていそうなハルキに貸してやり、それから順に他の仲間にも貸してやる。
ふとそこに熱い視線を感じた。メカニックの血が騒ぐらしく、タケルがじっとマッサージ機を見ているようだ。
「マッサージ機の震動を応用して何か作れないかな……アラタ君、終わったらちょっと借りていい?」
当たったものが役に立つなら断る理由がないと貸したのはいいが、トイレに行こうと目を離したら最後。ジェノックを離れてハーネス中に回されていた。
「俺様にも使わせろ! マントしてると肩がこるんだ」
ギンジロウが最大出力にしてタケルにマッサージをさせる。震動に合わせて声も震えるのが面白い様子だ。
「おい、うるさいぞ。テレビが聞こえない」
出力を下げさせつつ気になるので借りて使ってみるカゲトラ。こちらもハルキ同様色々な意味で疲れが溜まっているようだ。
「ええもん持っとるやん、マッサージ頼むわ」
効果をまだ実感できないうちにスズネがマッサージを頼みにやってきた。風呂上がりのハーネス女子達も全員がマッサージ機に興味津々だ。
「おお、こりゃええわ〜ヒメも使ってみい?」
優雅にいちご牛乳を飲むオトヒメに差し出すが上の空、視線の先にはもはや言うまでもない。わけがわからないまま牛乳ビンの代わりにマッサージ機を持たされ、視線の方向にふらふらと向かっていく。
「ジン様、素敵なものをいただきましたの。これで私を、いえ私がマッ、マッ……!」
オトヒメは言葉の途中でのぼせたらしく鼻血を出して倒れてしまう。その隙に転がっていったマッサージ機はポルトンの手に渡った。

「はーすっきり……で、なんでお前らがそれ使ってるの?」
トイレから戻ったアラタはヒナコの肩の上で震えているマッサージ機を見て首を傾げる。話を聞けば足元に転がっていたから使ったそうだが、席を離れる直前に貸したタケルが人の持ち物に対して乱暴な扱いをするはずがない。不思議そうに見ていると慌ててタケルが謝りにきたが、何か理由があったのだろうと責めるつもりはない。
彼によればアラタが目を離した直後にマッサージ機をギンジロウに取られたのを機に、短時間で大冒険をしたそうだ。
「そ、それは大変だったな……」
「うん……今度は人が少ないときに頼んでもいいかな」


◇◆◇◆◇◆


結局自分ではあまり使うこともなく翌日の新年会を迎えた。
体を張った一発芸に疲れてベッドで横になっていると部屋のドアがノックされ、ムラクがビニール袋を持って入ってきた。
「生徒会のラボは買い出しで備品は足りている。好きに使っていいと聞いたからうちのラボに少し寄付しようと思って持ってきたんだ」
「なになに……全部ティッシュ? あ、これは!」
半分に割った菓子を食べながら抽選会について話す。
昨日ムラクは生徒会の買い出しに行き、そのときの抽選会でポケットティッシュばかり当たったらしい。かなりの額を使ったため回した回数も多かったが、当たったものは五等のスナック菓子一つを除き全てポケットティッシュだったそうだ。
「ボックスティッシュの買い出し担当で当たったのがほぼポケットティッシュか……あ、そういえば特等って出たのか?」
「いや、あれはただの客寄せじゃないか。一等は出たらしいが」
ならば今年最初の抽選会ではアラタが一番いい景品を引き当てたことになる。
昨日の夜はタイミングが合わずムラクはあの場にいなかったため、マッサージ機のことは知らない。見せてみれば一体どんな反応をするだろうか。
(本当はアロハロア島のチケットを見せたかったんだけど……)
指でムラクの肩をつつき、一等と貼り紙のされたマッサージ機の箱を片手にあえて言葉に出さず笑顔だけで伝える。
「よかったじゃないか」
「う、うん、まあな!」
そう言われればこれも悪くない気がしてきた。そもそも末等のポケットティッシュの山を見て一等が微妙だったなどと言える空気ではない。
「そうだ聞いてくれよ! 昨日タケルに貸してトイレ行ってる間に色んな奴の手に回ってて、いつの間にかポルトンの奴まで使いだしてさ! 俺なんかまだまともに使ってないってのに……」
今なら使えるとスイッチを入れてみる。結構な音に驚き、出力を最小まで下げてみるが無音にはならない。人の多い談話室では気にならなくとも壁の薄い部屋では立派な騒音だ。音を最小限にしようと布団をかぶって震動を楽しむことにした。
「おー肩ががががブルブルブルブル……あれ、どこいった?」
肩だけでなく声が震え、手も一緒に震えるのが面白いからと軽く持っていたのが悪かったのか、どこかにいってしまった。
音のする方へ手を動かし、何かがせき止めるように前にあるおかげでようやく持ち手を握れた。が、安心するのはまだ早い。布団の中で何に当たっているのか。
「…………っ!?」
変な声がしたので少しだけ布団をめくってみる。発見されたマッサージ機はちょうどムラクの足の間で震えている。
聞こえた変な声とやらは股間にマッサージ機を当てられたムラクの反応らしく、事故とはいえ何とも言えない気まずい空気の中それを横に置く。実際見たことはなくとも耳にする会話でアダルトビデオの中でこういった器具が使われるくらいの知識はある。
「……全く、こんなこと間違っても俺以外にはするなよ」
小声でそう言いながら恥ずかしそうにスイッチを切ったマッサージ機を返す。とんでもない失言に気付いたがもう遅い。
「へー、じゃあムラクにはしてもいいってこと? えいっ」
「いや、そういう意味では……ま、待て、そこは……!」
そう言いつつも嫌がる様子はないのは本心では期待しているからなのだろうか。新年会の二次会の勢いで調子に乗れば誰にも止められない。もう少し強くしても大丈夫かと思い、レバーを上に切り替えたところで震動が止まる。部屋が真っ暗になり、CCMの充電が切れる音がした。
「ん? あれ? おーい、もしもーし……」
スイッチを入れ直して呼びかけたり叩いてみても反応がなく、これ以上の悪戯は未遂で終わる。
原因はジェノックのラボが一時的に電気を使いすぎてブレーカーが落ちたからだという。1960年代の生活に合わせて古いものを使っていればよくあることだ。
だが、翌朝からマッサージ機を見るたび恥ずかしさが襲ってくるようになった。

数日後、油性ペンでご自由にお使い下さいと書かれた電動マッサージ機が箱に入れられていた。以降、ダック荘では風呂上がりのマッサージ機の争奪戦が行われているという。当然他の部屋への持ち出しは厳禁だ。

2015/01/16

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