七月某日、待ちに待った海開きがやってきた。
夏休みの今は一般の授業はなく、成績があまりよくなかった者を対象とした補習や希望者を対象とした発展授業、そして高等部三年生に向けた受験対策講座のみが開かれている。
島への入出規制も以前と比べると緩くなったので帰省することもできるが、せっかくの海に一度も行くことなく実家で過ごすのはもったいないだろう。

浜辺には各クラスのテントが張られ、その下のビニールシートに荷物を置くようになっている。島のボランティアや生徒会の見張りがあるので安全面の心配もない。
二年五組と書かれた所属国に合わせた紺色のテントを見付けた生徒達は浮き輪やフロートなどの遊具、水筒などを置いて更衣室に向かう中、何を思ったのかアラタがその中心でいきなり服を脱ぎ始めた。神威島名物の海に入るため一旦帰国したといっても過言ではなく、朝から下に水着を着てきたようだ。
そこに勢いよくホイッスルが鳴る。近くでビーチバレーの試合でも始まったのだろうか。
「待て、準備体操もなしに入るな!」
「うわっ脱げる、脱げるってば!」
ハルキがアラタの水着の腰部分をつかんで引き止めれば周りにいた女子生徒達が目を覆う。制服の下に着ていたパーカーを再び着せられて全員の着替えが終わるまで待機するように言われ、しょんぼりと更衣室付近のベンチに腰を下ろす。海や砂浜ではしゃぐ水着姿の生徒達を見ているとため息が漏れた。

全員揃ったところでテントの前で準備体操をし、出欠を確認する。これが終われば海で遊べるのだ。
「飛び込むなよ」
「わかってるって!」
ハルキに代わって今度はムラクにそう言われ、アラタは上に乗って浮かぶための大きな浮き輪を片手に海に向かって走っていく。
こうして行き先を波にまかせた気ままな浮き輪の旅が始まった。何も考えず海に浮かんでいると宿題のことや補習のこと、嫌なこと全てを忘れられるのだ。
まさかここまで来てまで勉強のことで頭がいっぱいの者はいないだろうとクラスメイト達の様子を遠くから眺めていると男ばかりの人だかりができていた。
その中にいるのは全員が女子である華の第4小隊だ。今日の水着は禁欲的なデザインのスクール水着とは違い、派手で露出度が高く目のやりどころに困る。
「邪魔だよ、どきな!」
巨大な水鉄砲を群がる男子生徒達に噴射しながら以前彼女達に勝負を挑んできたポルトンの三人が現れた。風向きが変わり、何故か浮き輪がその近くに引き寄せられるように流れていく。嫌な予感しかしない。
「うわっ超だっせー水着! 体にボロ雑巾巻いてるなんて雑巾がかわいそう!」
まだ濡れていないキャサリンの水着にたっぷり溜めた水を頭の上からかけて挑発するヒナコ。キャサリンはバケツに入れた砂で応戦し、三人の全身が砂まみれになった。
「これはアスカ様が今月のLマガで着た水着とお揃いなのよ! 大体腐ったワカメみたいな水着の奴なんかに言われたくないし!」
ますます嫌な予感がする。絶対に視界に入らないように海から出るとムラクが声をかけてきた。黒いTシャツには生徒会の腕章、首には光を浴びて銀色に輝くホイッスル、そして紫色の水着がよく似合っている。
「何か他のクラスと揉めてるな」
「ああ、あんなの無視でいいよ。昔あいつらの私闘に巻き込まれて反省文書かされたんだ」
人の集まる学園ではあの程度の揉め事など日常茶飯事だ。一対一でも戦えるランキングバトルで決着をつければ生徒会の介入は必要ない。


二人はひとまず海の家に避難し、ちょうど空いた一番奥のテーブルにセルフサービスの水を置いて注文に向かう。
「まずは暑いしかき氷!」
「俺は焼きそばを頼もう」
海の家も学園祭の日の夜に行われる島の祭同様に全てのサービスが無料となっている。それをいいことにアラタはイチゴ味のシロップで氷の山を真っ赤に染める。それだけでは満足しないのか練乳も元の赤が見えなくなるくらいたっぷりとかけた。
一方ムラクは先にテーブルに戻り、山盛りの肉がこぼれそうな焼きそばを前に静止している。きちんと二人揃ってから食べるつもりだ。
「かき氷もおいしいけど焼きそばもいいなー……」
戻ってきたアラタにそう言われることを想定していたのかそっと紙皿と割りばしが出てきた。
「食べかけだけどいる?」
「い、いや、気持ちだけもらっておく……」
暑さで氷が溶け、大量のシロップと練乳がピンク色に混ざった胸焼けを起こしそうなかき氷。オーバーロードの維持なのか単に甘いものが食べたいだけなのかよくわからないが、肉が焼きそばを埋め尽くしている時点で人のことは言えない。
「あっ、ここ空いてる?」
隅に置かれた扇風機で涼んできた頃にビーチバレーの審判やナンパから逃げてきたユノがやってきた。海の家まで追いかけてきた男子生徒達も学園の英雄や最強プレイヤーには何においても勝ち目がないと諦めて去っていった。
難が去ったところでユノは純喫茶スワローが海の家限定で出している南国風チョコパフェを注文し、空いている席に座った。
「やっぱりすごいなぁ……」
「何が?」
ユノが指差した方向には大波が来ていた。そこには巨大な波を華麗に乗りこなす見知った顔がある。バネッサだ。
海を一瞬にしてパフォーマンス会場に変えてしまうような見事な技に拍手が起こり、どこに潜んでいたのか第4小隊をナンパしていた残党も動き出す。
「うーん、ブラウンマスタングにバイオレットデビルか……どう見ても俺らなんか視界に入ってねえぜ」
「おう、やめだやめだ。あそこの金髪の可愛い子、どうだ?」
「男連れじゃねえか。それも二人! ……ん?」
そこにいたのはアラタを除いたジェノック第1小隊だ。金髪の可愛い子とやらはヒカルのことなのだろう。
遠くから様子を見ていると三人が揃って羽織っていたシャツを脱いで砂の上に寝転んだ。ナンパに続けて失敗した男達の反応は言うまでもない。

「ふう、いい波だったぜ!」
三人のいるテーブルのすぐ近くの砂にサーフボードが突き刺さり、テーブルにはレモンやハイビスカスの乗った南国風のジュースが置かれる。
「さっきのすごかったよ!」
「ああ、見事だった」
「すげー! 俺にも教えてくれよ!」
三人が口々に賞賛の言葉を述べ、バネッサは照れくさそうに笑う。こんがりと焼けた肌には素晴らしいコントラストとなる白い歯が輝いていた。

四人でしばらく話していると、パラソルの下で日焼け止めを塗り合う人々を見て思い出したようにユノが言う。
「そろそろ私も日焼け止め塗り直そうかな……」
誰かに頼めば背中もしっかり塗ってくれるだろう。ちょうど全員の飲食も終わったので四人は空いているパラソルに向かった。
「うん、じゃあアラタお願い」
「え、俺!?」
同性のバネッサがユノの背中に日焼け止めを塗っている間影になっていればいいのかと思えば、まさかの指名にアラタは飛び上がりそうになる。続いてバネッサからムラクにもサンオイルを塗るよう指名が入り、二人は顔を見合わせる。
ユノ達はビニールシートの上で背中が塗りやすいように水着のひもをほどいてうつぶせになっている。海ではよくある光景でもこの年頃には刺激が強すぎるのか困惑した顔で再び顔を見合わせた。
風呂で同性の背中を流すことはあるが、異性の背中に直に触る経験などあるはずがない。女子特有のやわらかさに驚き目を逸らしつつもなんとか塗ってもよさそうな場所には全て塗り終えたが、ここに一つ問題があった。
(蝶結びってこうだっけ……)
アラタがうまくひもが結べないらしく、何度結んでも縦結びになり左右のひもの長さが合わない。再び結び直そうと思ったが、数秒間に合わずユノは先に海へ向かったバネッサを追いかけるように走っていってしまう。
(うわー……どうしよう)
あらかじめ結んでもらうように言っておけばよかった。今となってはもう遅いことだが、そのことがいつまでも頭の中を駆け巡る。
「いい風が吹いてきたな」
暑い夏の海にはありがたい風も今は不安の種でしかない。涼しくなって少し嬉しそうなムラクと寒気で変な汗をかくアラタは対照的だった。
「やだー水着が……」
こういうときに限って考えたことは当たる。二人揃って物凄い勢いで振り向くと、周りの時が止まり、全てがスローモーションで再生された。まるでオーバーロードのようだが、その現象が起こっているのはアラタだけではない。ムラクもだった。
「ぐへっ」
何が起こったのかはサーフボードが邪魔で見えなかった。その代わり、後頭部にすさまじい衝撃が走った。重く硬い物で殴られたかのような鈍い痛みにアラタは倒れムラクはその下敷きになる。ポルトンとビーチバレーをしているキャサリンの強烈なスパイクが直撃したようだ。
「アスカ様の水着を着れば無敵なんだから!」
ヒナコは悔しさのあまり地団駄で砂埃を巻き上げていた。どうやらジェノックの勝利のようだ。
顔や体中が砂まみれになり、ペットボトルの水で砂を流し終えた頃には事は全て終わっていた。

「そろそろ交代の時間か」
どうやら今から生徒会の仕事があるらしくムラクとは一旦別れる。夏休みだろうが関係なく仕事が山ほどある生徒会は大変だと思った。
「何か面白いことないかなー……」
などと独り言を呟いてみると、数人のクラスメイトが砂浜で遊んでいる。砂の城やトンネル、そしてメカニック達が中心となって作った砂のLBX像などの芸術作品の数々が見える。
その作品の中に神々しさを放つものがあった。女神の彫刻にも等しい美しい曲線美を描いた砂の芸術に自然と足が向かっていく。
どんな美女が寝ているのかと思えばコウタが寝ているリクヤの体に砂を盛っているのだった。その横で珍しさから真剣に写真を撮っているロイの姿もある。見知った三人の顔に現実に戻され、ハルキの隣で寝ているヒカルの前で足を止めた。
「よし、俺もやるぞ!」
気合いを入れて握り拳を作り、借りてきたバケツに砂をいっぱいにする。起こさないように少しずつ砂をかけていき、砂の女神像を作ろうと意気込んだ。
「ここはこうして……」
制作は順調、起きてきたサクヤがアラタの作っているものを覗き込む。山盛りの砂を見ても何かわからないようだったが、コウタの作品を見て察したようだ。
「僕も負けてられないな」
学園の英雄達のLBXを作り上げたメカニックにこんなことができないはずなどない。サクヤもバケツに砂を山ほど入れて持ってきた。
「うーん、何か足りないんだよな……」
アラタは奇妙な砂の山の前で難しい顔をしている。両隣のライバルほど器用ではないうえ、砂の塊は女神を通り越して土偶のような体形になっている。それを見てサクヤはこっそりと笑っていた。
それに気付いたアラタはサクヤの方を見る。素材に選ばれたハルキは古代の英雄像のような筋骨隆々のたくましい肉体に生まれ変わっていた。
優秀なメカニック二人には敵わず悔しい。そこに救世主のごとくタケルが通りかかった。素材は学園一の美少年、それにアルテミス優勝者のLBXを一から創り上げた天才メカニックの手を借りれば百人、いや千人力だろう。
「おーいタケル! ちょっと手伝ってくれ!」
「ん?」
振り返ればアラタが土偶のようなものを作っている。島の豊作を願っているのだろうか。同じ小隊のカゲトラは生徒会の仕事に行ってしまい、スズネはスイカ割りをしている。暇つぶしに歩き回るよりも友人を手伝ってみるのもいいかもしれない。
「な、あ、あれは!?」
素晴らしいプロポーションの美女が水着どころか貝殻だけで体の一部を隠し、ほとんど裸のような状態で寝転んでいるではないか。それをニヤニヤしながらコウタが弄り回している。もはや以前の会話の中に出てきたエッチな本どころではない。
タケルは衝撃と動揺のあまり後ずさり、海藻を踏んだ。
「わっ」
ぬるぬるとした気持ち悪い感覚が足の裏に伝わり、滑って転んで土偶の巨大な胸部に突っ込む形となる。汗をかいていた顔は砂まみれになり、口にも砂が入った。
「ごめん、大丈夫!? いててて……」
「大丈夫だ。おいアラタ、僕が寝てる間に何をしてくれたんだ」
眠りから覚めたヒカルは体から砂を落とし、ペットボトルの水で洗い流す。顔を突っ込んだのはタケルだったが、犯人はわかっていた。
「す、砂の布団を……」
ヒカルに続き、寝ていたハルキやリクヤも体を起こす。芸術作品はただの砂に戻ってしまったが、崩れる前の姿は新聞部が写真に収めていた。
「はいはい、ケンカはあかんで! ここは仲よーしてスイカでも食べや」
まずいと思ったタケルがスズネを呼び、その場にいた者達の口にスイカを押し込んでいく。おかげでヒートアップした空気も落ち着き、大事にはならなかった。
「君たちもしてみないか、スイカ割り」
おいしいスイカに心も体も癒され、おかわりはないかと思っているとスイカと棒を持ったジンが現れた。水着の柄は相変わらずの戦闘機だ。
「よーし、やるやる……って、あ!」
「僕がやります。棒と目隠しを」
先に棒を手にしたヒカルは目隠しの布を巻かれ、周りの声に合わせてスイカに近付いていく。剣道で鍛えた姿を見せてやる、と背中が言っていた。
ジェノック・ハーネスの各小隊で一つずつ割ったために十個中九個が割られている。ジェノック第1小隊だけは取り込み中で声をかけづらかったらしく、残りのスイカは一つしかなかった。
「スイカ割り終わったらたこ焼きパーティーや。さっき店のおっちゃんがでっかいたこ取ってんで!」
スズネが指差したパラソルの下には島の祭で使われた巨大なたこ焼き器が置かれている。具材はたこの他にチーズ、ちくわ、こんにゃく、ウインナー、さらにはアイスやチョコレートまである。
こうして神威島に来て初めての海はたこ焼きパーティーで締めくくられた。


◇◆◇◆◇◆


その夜。アラタは誰もいない海で水に足をひたしていた。日中は暑かった気温もすっかり下がり、少し肌寒い。
(……ここにいたのか)
ムラクはアラタが砂浜に座っている姿を発見すると近くまで行き、静かに隣に座った。昼間は聞き役に徹したり生徒会の仕事で離れたりと、あまり会話といった会話ができなかった。またしばらくすると旅に出てしまうのだから、一緒にいられる間はそう長くない。
「夜の海って、こんなにも穏やかでさ……」
透き通った海はどこまでも長く続き、落ち着いた夜の風景にふさわしく静かに揺れている。アラタは口を開き、右足で小さく水音を立てた。ムラクが隣に来たときも何か話してくれるのかと少し待っていたが、黙ってじっとしているのは性に合わない。無言のまま心を通わせて寄り添っているよりもやはり言葉と行動で思いを伝えたかった。
「海といえば、ジンさんから来月セレディの裁判があるって聞いたんだ。あいつ、どうなるんだろう……俺も見にいこうかな」
「わからない。だが、あれだけのことをしたなら刑罰も当然重いだろうな」
二人は世界連合軍がワールドセイバーに勝利した頃のことを思い出していた。アラタ側はオーバーロードだけに頼らずに仲間との絆が勝利へと導いた。セレディ側は人工的に組み込んだオーバーロードを酷使し続けた反動や、誰も信じないという絶対的な自信が敗北、破滅へと導いた。
アラタは戦いの後に聞いた穏やかな海が見たかったという、彼の最後に言った言葉が忘れられなかった。
「世界にあるのはこんなに綺麗で穏やかな海ばかりじゃない」
旅の中で戦争をしている国や先進国に追い付こうと工業に力を入れている国の海も見てきた。ごみや魚の死体などが浮かび、血や化学物質で変色した海では人は遊べない。学園の仮想国が一つにまとまっても、世界情勢はあまり変わっていない。
自分にできることを探し、世界を武力ではなく別の方法で変えていこうと決意して一度は島を去った。
「言い方は悪いけど、俺たちが誰にも邪魔されないでこうしていられるのってあいつが来たからなのかな」
「確かにそうだが、それも一つのきっかけにすぎない」
一連の事件が起こる前は敵対する仮想国を表す灰色と紺色の制服に身を包み、接触を禁じられていた。あれ以来、同盟国以外の仮想国の生徒達とも仲良くなれたのは嬉しいが、戦死者として退学したり家庭の事情で学園を去ることになった者も多い。他国との自由な交流を心から喜べる日はまだ来ていない。
「仮にそうでなくとも俺が司令官になって学園を内側から変えていった」
「そういえばそんなこと言ってたな」
今や司令官は形だけのものとなった。ウォータイムや軍隊のような厳しい規則もなくなり、生徒個人個人が簡単なルールの中で自由にランキングバトルに参加するという純粋なLBXの専門校を目指して日々新しい取り組みがされているのだ。
「じゃああんなごたごたもなくて、ムラクが司令官になったらどんなことしてた?」
何をするかは具体的に決めていたが改めて聞かれると返答に困る。まずはシルバークレジットを規定数集める。司令官になってからは一般の教師や生徒が知ることができない情報を集め、司令官の権限を最大限に使って実情を探る。ロストエリアに眠る人柱の存在を公にし、現実にそうしたように大人達の反対を押し切って立ち上がる……こんなところだろうか。アラタは首を上下に動かしながら興味深そうに聞いていた。
「で、ムラクがジェノックに知らせにきたら俺は真っ先に協力するぜ! それでハルキが代表になって世界連合を作ってLBXのおかげで世界が少しずつ平和に! と、こういう未来になるかもしれなかったってことか」
「お前は本当に面白いな」
ムラクはアラタの想像力の豊かさに思わず笑ってしまう。学園の内部事情を知ってからは笑うことも少なくなってしまったが、変なスイッチが入ったのか笑いが止まらない。
「全ての物事にはあらゆる可能性がある。最初の可能性がLBXの存在だろうな」
アラタの憧れであるバン、その父親の山野博士がLBXを発明した。一度は危険なおもちゃとして認識されたが、のちに発明された強化ダンボールのおかげで世界中で大ブームを巻き起こした。高すぎる性能がゆえに悪用されることもあったが、伝説とも呼ばれるLBXの使い手が何度も世界を救い、二人も伝説を受け継ぐ者として名を連ねた。
「今度はA国のLシティに行くらしい。だからしばらく会えなくなるよな」
今の気持ちは寂しさと嬉しさの二つが混ざり合っている。今度はいつ帰ることになるかわからない。大切な仲間と長い間会えなくなるのは寂しいが、旅先で憧れの先輩に会ったりLBXがきっかけで仲良くなった新しい友達ができるかもしれない。その嬉しさが少しだけ勝っている。この先再び離れ離れになろうと、LBXがあればいつでも繋がれるからだ。
「今夜ハルキがヒカルたちと部屋で宿題をするらしい。俺はほぼ終わらせたから部屋を抜けても構わないが……」
305号室にヒカルが行けば302号室は実質個室状態となる。出発前に二人きりの時間を過ごせる絶好の機会を逃すわけにはいかない。
「それって……今日はいいってこと?」
「俺に勝てたらな。その代わり、お前が負けたら大人しく寝ろ」
勝ち負けはともあれ、一度部屋に来れば大人しく寝ていられるはずがないのもわかっている。これはさらに強くなった二人が本気になるための言葉だ。久しぶりのバトルだからといって手加減などあっては困る。



その翌日、二人は何故か制服をきっちり着てジェノックのテントの荷物番を率先して引き受けていた。

2014/08/27

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