冬休みが終わって一週間か二週間したある夜のことだ。
世界の命運をかけた戦いの真っ最中、学校に行けない分山積みになった宿題を受け取り、少しずつでいいので皆で協力して終わらせていく。下級生が頭をひねる問題を余裕のある上級生は教え、また同級生同士でもわからない部分は助け合っている。
「この戦いが終わったらどれぐらい補習に行かないといけないんだろ……もうすぐ受験生だし本当、やばいよ……」
「そんなに暗いこと言うなよ、いざというときはLBX推薦が俺たちにはあるんだぜ! というわけで英語は写させてくれよ」
カズがテーブルに突っ伏したバンのノートを取り上げると、英文の中にミミズの這ったような力の抜けた線が何本も引かれていた。途中で半分眠っていたのだろう。
「バン君、もう少しだから起きるんだ。次は数学だ」
「うぅ、眠い……」
ジンは数学の問題集を代わりに開いてやり、ブラックコーヒーとミント味のガムを添えた。彼は宿題など、とっくに終わらせていた。もともと締め切りに余裕のあったレポートを時間のあるうちに終わらせていたのだが。
「ああもう、意味わかんない! こんなだらだらと文字を追ってるよりも体動かしてる方がいいわよ!」
「俺も同感ー」
学校も学年も違うが偶然同じだった国語の教科書を開いたまま伏せて伸びをするランとアスカ。姉妹のように揃った動きで伸びてから大きな欠伸をした。


「学校って楽しいのかな?」
教える声や欠伸に混じって聞こえてきた、眠気を全く感じない明るい声。黙々とジンの隣で何かを書いていたユウヤだ。
通えなかったが小学校で習う基礎科目を超短期間で習得し、さらなる発展を求める彼は海外――慣れ親しんだ中国の通信制学校の宿題をしていた。小卒の資格を持たず、偏りすぎた知識のため日本では行ける学校がなくてこうせざるをえなかったという。
教科書はなく何かテーマを決めてレポートを書いて出すらしい。漢字がびっしりと書かれた紙を見せてくれた。

「机と黒板があって先生が前に立ってるのは知ってるよ。あと勉強以外もすることがあるんだよね」
「うん、遠足とかね。楽しいよ」
ユウヤは建物である「学校」を舞台にしたドラマをよく見ていた。いつかテレビの中の世界を現実のものとし、「学校」での青春に憧れているという。
普通の学校生活を知らなくても仲間がきちんと教えてくれる。どこの学校でもあるだろう楽しい校外学習、修学旅行、運動会や文化祭の話に心を躍らせ、地獄のテストと授業参観、懇談会の話には目を丸くする。学校によって様々な七不思議、怪談話、名物の先生の話も聞いた。
黒板と一人用の机はないが、ここにはホワイトボードと繋がったテーブルがある。そこで皆で教科書やノートを開いて各々の勉強をしている。「学校」もきっとこんな感じで楽しいんだと思う。ここも一つの校舎なのだろう。
「高校は頑張って校舎のあるところに行こうと思うんだけどね。そうだキリト、高校ってどんな感じ?」
キリトは宿題がないらしく、邪魔をしないように壁にもたれていた。唯一の高校生だからと急に話を振られ、皆も知りたいと集まってくる。
「……高校は別にどこだろうと普通だろ。中学校とたいして変わらないよ」
「その普通がわからないんだ! 中学校だってテレビの世界だし」
最後の言葉で不思議な顔をしたキリトにジンがフォローを差す。
「ユウヤにはちょっと色々事情があってな」

――そこで全員の通っている学校について教えあうことになった。日本の公立の平凡な学校から私立の学校、さらには金持ち学校と言われる名門校に、A国の学校。日本と海外の教育システムは少し違うらしく、多くの者が興味津々だった。
ジェシカによればA国では日本のように桜とともに入学するのではなく、九月に始まるという。それに地域によって義務教育の制度が違ったり、六年生の次は七年生、そして十二年生まであることを聞いた。
「幼稚園から高校まで一貫だから楽よ。でも女子校だからその間出会いが全然ないなんて不公平だわ! あ、でも今年入ったイケメンの先生が私をずっと見てる気がするの……」
また始まった、とアングラテキサスでの一件を知っている者達は呆れた。

「俺もジンやジェシカみたいにA国の学校に行きたいな……」
ひとり言のように何気なく呟いたバンの発言に何人かが食い付いた。続いて次々と行きたい、という声があがっていく。
「ならば君たちはESLを受けることになるな。僕は昔おじい様に外国語はいくつか叩き込まれたから免除されたが」
聞きなれない言葉にジン、ジェシカ、キリトを除いた全員が首を傾げる。
ESLというのは英語が母国語でない生徒用の特別プログラムだそうだ。クラスから毎日一定の時間抜け出る形で授業をするものだという。
「懐かしいな……小さいときに何年かやってたよ」
キリトが言うには確かに英語漬けの毎日だったが、遊びの中で覚えていったので精神的苦痛はそれほど感じなかったという。家を探せばその当時の教材が出てくるらしい。
「やっぱり俺は二中が合ってるや……」
「ああ、平凡なのが一番だぜ」
A国なり他の国なり留学する以前に彼らはまだ宿題を終えていない。一部の者は話に参加しながら着々と進めていたのだが、ほとんど手を付けていない者もいる。時刻が午後十時を回ったところで本気でスタートまたはラストスパートに取りかかった。

「……こうして話を聞いていると、どの話も驚くことばかりだったな」
バンが飲まなかったので冷めてしまったコーヒーをジンが飲み、新しく持ってきたものにミルクと砂糖を入れてかき混ぜておいた。
「でも俺が一番びっくりしたのは戦闘機登校だよ。毎日がスターの来日みたいで大騒ぎだったし」
「そ、そうかい……」

生まれたり育った環境が違えば学校も生活様式も大きく異なる。同じ学校の友達と学校の話題で盛り上がるのもいいけれど、違う環境で育った友達の学校の話を聞くのも面白い。その中で共通点を見つけたり差異に驚いたりもする。もし彼らの環境で育てば自分達もそんな学校生活をしていたのだろう。
そうして楽しく話しているうちに冬休みが終わってからの学校生活の憂鬱さも次第に薄れてきた。
しかし、
「やばい、しゃべってたら宿題が終わらない!」
「俺もだ! 頼むアミ、宿題全部見せてくれ!」
「ダメよ」

結局、宿題が終わらなかった者は徹夜で仕上げることとなるのだが、翌朝にはまっさらなノートに伏せる者が多くいたとか。

2013/01/27

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