「こどもの日」の話

二度のノックの後、女子二人が男子部屋の掃除にやって来た。掃除機とごみ袋を持って現れたランとジェシカを見て、男子四人は邪魔にならないように部屋の隅に急いで寄る。

「見られたら困るようなものは今のうちにどこかにやること!」

などと言ってランが丁度後ろにあったベッドの枕を勢いよく取り除く。三つ並んだうちの真ん中、ヒロの枕だ。

「そんなものありませんよ! ……あ!」

枕の下から出てきたのは、なんとバンの写真だった。真剣な表情でCCMを片手に敵と対峙している凛々しい姿だ。いつ撮ったのだろう。
てっきり男子の部屋にありがちなものを想像していたランは拍子抜けする。何も言わず、見なかったことにして枕を戻した。

ジェシカは袋を持って各ごみ箱の中身を一つにまとめ、辺りにある比較的大きな紙類やお菓子の袋を詰め込む。ランが細かい塵や埃を掃除機で吸っていく。
横に並ぶ三つのベッドの周りは終了した。

「残るはジンの所だけね」

掃除がもうすぐ終わる、うきうきした気分でジェシカは袋を持っていく。ランは掃除機を構えるが、そこは誰も使っていなかったかのように整頓されて塵一つすら落ちていない。

「ん?」

ジェシカは台の上に置かれた、三角に折られた紙を発見する。ごみだと思い、それをつまんで袋に入れようとすると部屋の隅からジンが駆けつけてきた。

「それは……!」

ただの折られた紙にしか見えなかったが、何か理由があるのだろう。ジェシカは手を止め、袋からそれを出した。
ジンはこの紙はごみではないと言う。三角に折られた紙だが少し不思議な形、角のようなものが二本出ている。それが何かわかった三人が集まってくる。

「これってカブトだよね?」

日本を離れてずいぶんたつ。ジンを除く四人は今日が五月五日だということをすっかり忘れていた。A国でずっと育ってきたジェシカは今日のことについては知らないようだ。

「日本の行事だ。端午の節句、またはこどもの日という。五月五日にはこうして男子の成長を祝ったり健康を祈るんだ」
「女の子のための行事はないの?」

少し困ったような表情でジェシカは言葉を漏らす。そこにランが顔を覗かせた。

「女の子には三月三日にひな祭っていうのがあるのよ!」
「二ヶ月も前かぁ……」

もう少し早く知り合っていれば「ひな祭」とやらが楽しめたのに、とジェシカは思った。何をするのかはよくわからないがおそらく「こどもの日」とよく似た行事なのだろう。

何やらCCMの操作音が聞こえる。さっきからそれを触っているのはジンだった。数回の電子音の後、手は止まった。
ジンは海道邸にいたときの写真を見せる。広い部屋の奥に鎧、兜、刀に五月人形などが堂々と飾られてある。それを見てヒロは目を輝かせた。
次に出てきたのは庭に五色のひらひらとしたものと黒、赤、青の三匹の魚を模したものが写っている写真だ。

「これは?」
「こいのぼりだ」

しげしげと写真を眺めるジェシカ。次の写真は植物の葉を浮かべた風呂、その次はテーブルの上に和菓子が乗せられている。興味深そうに見ているのでジンは一つずつ丁寧に説明をする。

「色々教えてくれてありがとう。コーチ、これの作り方教えてくれる? それからお風呂も面白そうね!」


その夜、ブリーフィングルームのテーブルにはジェシカの作ったちまきと柏餅が並べられ、風呂には菖蒲の葉が浮かべられていた。
2012/05/05

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