既出かもしれない

昼休み、屋上。
午前中の授業も終わり、昼食の時間だ。教室、部室、中庭または屋上と、学校の敷地内で家から持ってきた弁当や近くのコンビニで買ったパンなどを広げる生徒達。
数日の間、降り続ける雨にうんざりしていたが、今日の青く澄み渡った空は絶好のお弁当日和だ。いつもは教室に集まり数人で食べているのだが、今日は趣向を変えて屋上へ行くことになった。
本日、かなりの競争率である屋上の特等席に一番乗りしたのはカズだった。
チャイムが鳴っても長話をする先生は出張であり、一年一組の教室は運良くも自習だった。これはチャンス、と屋上での昼食をバンは提案した。特等席――真ん中のフェンスから見える絶景をジンにも見せてやろうと思ったのだ。

「あっちには駅で、そっちは河川敷が見えるんだ。それから向こうの方は住宅街があって俺たちの家があるよ!」
「……双眼鏡を持ってくればよかったな」


――目を離した隙にジンの食べかけのパンに小鳥が何羽か群がってくる。しかし、食事や会話に夢中のカズやアミ達はそれに全く気付いていない。

「あっ、こら!」
「……!?」

戻ってきたバンが小鳥を追い払う。驚いてバサバサと羽音を立てて飛び去っていったのはいいが、パンは跡形もなく食べられていた。
授業はまだ二時間も残っている。ほんの少しパンをかじった程度では空腹に苦しむだろう。それに、大勢の前で腹を鳴らすような恥などはかきたくない。
表情には出さないが、相当落ち込んでいるのだろう。ジンは黙ってパンの入っていた袋を畳み始めた。

「よかったら俺の、食べる?」

バンがジンに声をかけると、周りも便乗し始めた。優しい声かけと懐かしい庶民の弁当に自然と笑顔が浮かぶ。幼稚園以来のことだ。
五人の弁当に入っている食材が、次々とバンの弁当のフタの上に乗せられた。ハンバーグとコロッケ、玉子焼きとタコさんウインナー、エビフライとミックスベジタブル、からあげとミートボールにポテトサラダとプチトマト。五人が分け合うと、空だった弁当のフタは一気に色鮮やかになった。

「みんな、すまない。これからは食べ物から目を離さないようにする」
「ドンマイ」
「あのパンおいしそうだったもんなー……」

弁当を分けてもらったのはいいのだが、箸がない。仕方ないので誰かが食べ終わるのを待った。一番早いのはリュウだと思われたが、苦手なピーマンと格闘している。二番手はおそらくバンだろう。弁当の中には赤いものが二つだ。

「……バン君、それはカニなのかい?」
「これ? カニじゃないよ、『カニカマ』だよ」
「かに、かま……?」


両親がまだ生きていたときはいつも幼稚園に弁当を持っていった。毎日弁当をわくわくしながら開く昼食の時間。それが続いたのはほんの三、四ヶ月のことだったが、「カニカマ」というものは入っていたことはなかった。
色も形もカニにそっくりだ。だが、これはカニではないという。魚のすり身で作られた「カニ風味のかまぼこ」、ジンにとっては物凄く不思議な食材だった。
ジンが興味を示したので二つあったそれを一つ分けてやる。ぷにぷにとした食感と、本物のカニではないが魚介類独特の風味が広がる。

「どう?」
「確かにこれはカニではないな。だが、意外と食べられる」

おでんといいカニカマといい、何故か庶民の食べ物には心引かれる。元が庶民の出だというのもあるが、それ以外にも何かあるのだろう。


「もしもし、じいやか? 明日の弁当にカニカマを入れてくれないか」

……どうやらジンは「カニカマ」が気に入ったようだ。


2012/04/08

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