退院後。最初の方は少し暗いです。

午後六時、少し早めの夕食。
退院後、いつもユウヤが飲んでいる薬は白と薄桃色の錠剤が二つ、黄色い粉薬が一袋、透明なシロップが少しだ。薬の苦味を抑えるため、ジンが買ってきた甘いゼリー状のオブラートと一緒に口に含んだ。
今日から朝夕二回で新しい薬が入ったらしい。それが入っている別の袋を開けると、カプセルが出てきた。
青いキャップの付いたカプセルを見てユウヤは手を止めた。
青いカプセルだけは事情があってどうしても飲めない。それは、過去にまつわる嫌な記憶がよみがえるからだ。

「ほら、あと一つだ」
「や、やだ! 飲みたくない!」

――体を改造して弄んだ研究員の不気味な低い声と同じだ。
薄暗い部屋で手術台に体を縛りつけられる数人の「優秀な」被験体。親指と人差し指でつまんだ悪魔の薬。悲鳴を上げることすら許されず、強引にこじ開けられた口内にねじ込まれる青い悪魔。
白い部屋で恐ろしい幻覚に苛まれ、それに耐え切ったのは「三体の」被験体。渦を巻いて脳内を侵食するあの悪夢がまた、ここでも繰り返されようとしているのか。

「これを飲んだら……また、おかしくなる……! アレが本当になったら今度は死んじゃうよ!」

ゼリーが甘い、と喜んでいたユウヤの突然の変貌にジンは一瞬困惑したように見えた。何故ユウヤがこんなにも怯えているのかはわからないが、海道邸の白の部隊の研究に使用していたコンピューターを見漁ったときに出てきた薬の中に、よく似た「青いカプセル」があった。

薬の説明を受けたときにそれが別のものであることはわかっていた。紙で見るのは平気だったが、いざ飲もうととすれば体が受け付けようとしない。ユウヤは、「青いカプセル」を見ると条件反射で怯えるようになっていたのだ。

「大丈夫、少し眠くなるだけだ」
「寝たら……寝たら死んじゃうよ! 怖い夢が、また……!」

ユウヤは細い首が折れてしまうのではないかという程に激しく首を振る。スープを飲んだ後の銀のスプーンが飛び、派手な音を立てた。

「なら、僕が飲もう。怖い夢を見ないことを確認すればいいんだな」
「ダ、ダメ! 早く口から出して! お願い……」

涙も混じって消え入るような声でユウヤはジンの両肩をつかんで揺さぶろうとした。しかし、入院中ほとんど体を動かす機会もなく体力の落ちた腕ではジンはビクともしない。

「せっかく会えたのに、そんなの……や、んっ――」

どうしようもなくユウヤが泣いていると、ジンの両手が背中に伸びてきて体を引き寄せた。鼻先が当たって、赤い瞳がすごく近くに見えた。
ジンはユウヤが薬を飲み込むまでずっと口を塞いでいた。ユウヤが観念してごくりと喉を鳴らすまで、決して唇を離さなかった。

「……もしまた飲めないようだったら、手伝ってやるからな」
「もう薬の口移しはいらない。それよりもジン君をちょうだい?」

 青い悪魔は消え去った。
2012/03/21

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