セレディを困らせ隊1〜3とハルキを困らせ隊1。3のみカップリング混在ですのでご注意下さい。

・セレディを困らせ隊 その1(セレディと綾部とゲンドウ/ネタバレ)
「さよなら、君は誰かと違って最期まで優秀だったよ」
怒りと血の色をした瞳に映ってしまえば最後。彼は五十年もの時をともに過ごした側近ですら不要となれば簡単に切り捨ててしまう男だ。
人差し指を少し動かすだけで目の前の裏切り者は絶命する。引き金は引かれ、銃口から銃弾が飛び出す。この一瞬で庇うこともできず、足もすくんで動かない。気付いてやれなかった不甲斐なさと恐怖感で傍にいたゲンドウも目をつぶる。

「何!?」
セレディは確かに綾部を撃った。しかし、彼は息絶えるどころか弾にかすりもせずピンピンしているではないか。まさか弾切れ、それとも詰まったのだろうか。
「毒ガスだけではありません。あなたの拳銃も水鉄砲に替えておきましたので」
ゲンドウが駆け寄り、倒れた綾部を抱き抱える。体は重く冷たくなり、左胸が赤い血の代わりに透明な水が広がっていく。撃たれたという演技だ。
「もう、何なんだよこれ! む〜〜〜〜」
頬を膨らませ、セレディはヤケクソになって水鉄砲を綾部とゲンドウめがけて乱射する。どう見ても思い通りにならず駄々をこねる子供にしか見えない。
「本物は私が持っております。閣下、覚悟して下さい」
九十パーセントが人工臓器でできた体は十パーセントの急所を撃たれなければ死ぬことはない。脳と心臓を守るために構え、傭兵時代に鍛えられた全神経を稼動させる。
形勢逆転。セレディが死を覚悟したそのとき、綾部の銃口からは紙吹雪と花が飛び出した。
まだ若いゲンドウにユーモア溢れる老人達の茶番劇は理解不能だった。

・ハルキを困らせ隊
問題児ばかりの第1小隊をまとめ上げ、現在は世界連合総司令官の地位とまでなった出雲ハルキが取り仕切る作戦会議。高らかな演説でバラバラだった国々を一つにした彼の作戦はどれほど素晴らしいものだろうか。会議室には座れない者が出てくるほどの生徒が集まっていた。
「では、この赤い位置を……」
白と赤のチョークで黒板に大きな図を書く。白の半円と中心の赤の丸、先ほどまで静かだった生徒達が妙にざわつき始めた。
「静かにしてくれ、声が後ろまで聞こえないだろう」
一旦話し声は収まる。しかし十分ほどが過ぎると再びざわつきが起こり始めた。しかも、今度はさらに大きい。
「静かにしろとさっきから言っているだろう!」
とうとう我慢の限界だ。ハルキは机を両手で叩き、怒りを表した。
「こんなに重要なときに何故騒ぐ? 理由があるなら教えてくれ」
「司令官、その図は刺激が強すぎると隣の奴が」
「いやいやこいつが!」
最前列の男子生徒二人が恐る恐る口を開く。振り返って黒板を見るがおかしな所はない。
「同じ図を反転させて描いてみるとわかります」
会議室中の男子生徒達は顔が真っ赤になり、女子生徒達はうつむいて胸元を押さえている。様子がおかしいのはわかったが、何に問題があるのか。ハルキは首を傾げなから白のチョークで反転した半円を描く。そして赤のチョークに持ち替えると、何かに気付いたのか突然図を消し始めた。
「これで大丈夫か」
ハルキは再び半円を描き、中心部の円を黄色で塗り潰す。腹の虫があちこちから聞こえた。
「昼休みはもう少しだ。それでは作戦会議を再開する」
「司令官!」
窓際の女子生徒が手を上げる。先ほどとは違い、腹を押さえている。
「今度は何だ」
「お腹がすいて集中できません」
また図について指摘され、振り返る。黒板には大きな目玉焼き、四時間目の空腹時には拷問だ。
「こ、これで問題ないか!」
二度も図について別のものと間違えられ、恥ずかしさのあまり会議を中断してコントロールポットに引きこもりたくなる。しかし、忘れてはいけない。彼は世界連合総司令官なのだ。黄色い円を消し、青で塗り潰す。やっと会議室は落ち着いた。

・セレディを困らせ隊 その2(司令官と教師組)
商店街のとある居酒屋。仕事で溜まった鬱憤を晴らそうと各国の司令官や一般教師が大勢集まっていた。
酔っぱらった大人達がテーブルを囲み、日頃の不満をぶちまける至福のひととき。ビールジョッキやカクテルを入れたグラスが置かれ、枝豆や焼き鳥などが並んでいる。
山積みの仕事を片付ける必要があったので、ジンは少し遅れるという連絡を入れた。向かっている途中にセレディと出くわし、一緒に行くことになった。
二人にとっては初めての居酒屋だ。第一印象としては威勢のいい店員の声に酔った客の笑い声が響いてかなり騒がしい。日本での庶民の生活が短い分戸惑う二人。べろんべろんの猿田に引っ張られて席に座らされる。保険医の日暮が序盤に飛ばしすぎたのか、早くもダウンして寝ている。
それなりの距離を歩いて喉が渇いた。メニューを開くが酒とつまみがほとんどだった。変に時代を意識したせいでA国留学時代にバーでよく頼んだノンアルコール飲料もない。
「どうぞ」
カクテルを飲み終えたシルビアにメニューを渡す。めくられるメニューはワインのページで止まった。
(はっ、セレディ先生が熱心にお酒を見ている……気分だけ大人の仲間入りかな)
セレディは小さな手をテーブルの端にちょこんと乗せ、シルビアが持っているメニューを覗き込んでいる。周りの者達がぐびぐびと酒を飲んでいる中うずうずしているようだ。
「それはまだ早いのでは」
(まずい、つい昔の癖が! 気づかれたか……)
うっかり飲みたかったものを指差してしまい、ジンがそれを指摘する。
老人の姿であれ少年の姿であれ、神威島に来るまでは堂々と酒を飲んでいた。それもかなりの酒豪だったため、誘惑の多いこの店は精神的苦痛の源でしかない。
「ここでは僕たちは未成年です。今から注文しますがオレンジジュース二つとおでん、それからポテトでいいですか」
「……はい」
誰にも気付かれていない最年長が妙に大人びた最年少にたしなめられる。入れ物からあふれそうな量のポテトがおいしかった。ケチャップが頬についたままおいしそうにポテトを頬張る彼の正体を疑う者はいなかった。

・セレディを困らせ隊 その3(コウリクと綾セレ?/R15)
生徒達が寝静まった夜、第三のパラサイトキーに忍び寄る影が一つ。眠る主人を静かに見守り、執事姿の老人が部屋を移る。
目的の部屋の前に立ち、ドアをノックする。部屋の主が出てくれば強行突破、出てこなければ寝ているものとみなしてマスターキーを使えばいい。
そっと開くドア。枕元にはわずかな明かり、部屋の主は起きている。だが、何かがおかしい。
「ああもう、眼鏡にかけるなって何度言ったらわかってくれるんですか!」
「悪い悪い、つい勢いでさ。次はご期待通り中にしてやるよ。普段はあんなに上品ぶってるのに、本当は中に出されるの大好きだもんな」
「いつ誰がそんなことを……」
部屋にいるのはパラサイトキーの持ち主に加え、同じ小隊のメカニックか。略奪を警戒して人を呼んだにしては無防備な姿を晒しすぎである。
二人の時間を邪魔してはいけないとドアを静かに閉めた。
(失礼いたしました)

「……綾部、そんなくだらない理由でパラサイトキーを奪えなかったと言いたいのか?」
エゼルダーム司令室にて不機嫌そうな少年の声が老人を一喝する。端から見れば異様な光景だ。
「ええ、お取り込み中でして邪魔はいけないと思いました。ところで閣下、若いとはいいものですね」
オートロックで部屋に鍵がかけられる。司令官席の立派な椅子に座れば床に足が届かないらしく、セレディは足をぶらぶらと揺らしている。そこに綾部が詰め寄った。
「おい、私に何をする気だ!?」
「お仕えして早五十年、それゆえ閣下の弱点は知り尽くしております。年老いてもまだまだ私は現役ですぞ」
当時年若い青年だった彼とあるときはいくつもの死線をさ迷い、またあるときは生きていることを実感した。今では心身ともに落ち着いたのだが、相手の若さには勝てず中年の体で色々無理をしたことを思い出す。
「わ、私は君を五十年間ずっと信じていた! だから、やっ、そん……」
2013/12/15

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