一月一日、元旦。海道邸別荘では朝から大忙しだ。
大晦日になる前から清掃員を普段の何倍の人数も雇って本邸と別荘の大掃除を行い、一流の料理人を雇っておせち料理や雑煮を作らせたというのに、カウントダウン番組を見るために夜更かししたユウヤがまだ起きてこないのだ。
時刻は朝の五時、初日の出まであと一時間と少しといったところか。
まずはユウヤを起こして軽く食事をさせ、用意していた着物を着させる。そして執事が戦闘機に積もった雪を溶かし終える頃には外に出ていなければならない。今年最初の大仕事に気合いを入れるべく、ジンは顔を水で洗って薄青の着物の袖に腕を通した。


「ユウヤ、そろそろ起きた方がいいぞ」
「あ、ジン君だ……このおもち、伸びないね……むにゃ」

一体何の夢を見ていたのだろう、ユウヤはかけ布団を引っ張っていた。引っ張りすぎて足の先が見えている。
寝ぼけているので水で顔を洗わせ、今日の目的を伝える。そうすると眠気も吹っ飛んだようで、ユウヤは食堂に走っていった。

簡単な食事を終えたあとは続いて更衣室に向かう。下着、襦袢、薄緑色の着物を着させて帯を巻き、最後に深緑色の羽織を着せる。これだけでは寒いと思ったので黄色いマフラーを巻いてあげた。
初日の出が始まるまで少し時間がある。二人は大きな戦闘機に積もった雪と一人で格闘している執事の元へ向かった。
そうして無事戦闘機は動くようになり、三人は大急ぎで乗り込んだ。


轟音と共に雲の上に出、赤く染まる地平線が見えた。高い山を目印に日の出が起こるまで何周かし、そのときを待った。
空から見えるものは地上からのそれよりも、どれほど美しいものか。本で見た宇宙に浮かぶ地球も、ダックシャトルの窓から見たものとは比べ物にならなかった。ならば太陽も美しいのだろう。

「ユウヤ、こちらからならよく見えるぞ」

右目を前髪で隠す彼のために左側に座らせてやったのだが、日の出は右側に座るジンの方の窓から見えてきた。戦闘機が傾かないことを確認して二人で身を乗り出し、窓にぴったりと張り付くように外を眺める。

「ジン君、すごく綺麗だね……キラキラしてる……」
「そうだろう。ユウヤにもいつか見せてやりたいと思っていたんだ」

思えばユウヤにとって初日の出を見るのは今まで生きてきた中で初めてだった。たまたま外に出かけたときに「初日の出フライト」と書かれたパンフレットを見て、値段に腰を抜かしたところ、ジンが見せてやると言ってくれた。面倒な予約も代金も必要なく、少しの早起きが必要なだけだ。しかも、乗り物は飛行機ではなく戦闘機であり、隣にはジンがいる特別仕様だった。

「宇宙からの地球も初日の出もジン君と一緒に見れてよかった……だから来年もまた一緒に見たいな」

さっき見たばかりだろう、なんて笑いながら言うと小指がこちらに伸びてきた。約束してほしいのだろう。小指を握り、二人は今年最初の約束をした。
2013/01/01

prev | next

TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -