「まさかヒロがグレースヒルズに住んでるなんて驚きだよ……」

昼食時、ブリーフィングルームのテーブルを囲んでバンやヒロ達六人は実家についての会話をしていた。ヒロの実家が日本有数の高級住宅地で著名人も住んでいるというグレースヒルズにあるということで、皆は興味深そうに耳を傾けていた。

「え、あのグレースヒルズ!? 家賃とかすごい高そうだし……ヒロの家ってそんなにお金持ちだったの!?」
「でもお母さんがきっちり管理していて無駄づかいなんてできないんですよ……」

ヒロは頭をかきながら三万クレジットの服代が払えなかったときの話を苦笑しながらした。金を稼ぐためにシーカーボードのクエストを受けて町中を走り回ったが、トキオシアでの活躍に免じてタダで服をもらったことだ。

「ヒロ君って一人でいる時間が長かったんだよね……寂しくなかった?」

孤独な九年を過ごしたユウヤが心配そうに尋ねる。口座に生活費を入れてくれたり、レトルト食品を送ってくれるので母親の存在を近くに感じるけれども、正直に言えば寂しい。そんなときに面白いもの――毎日朝と夕方に規則正しく飛ぶ戦闘機をベランダで見かけたそうだ。

「どんな人が乗って何をしているんでしょうね。それがもう、ずっと気になって気になって……」

懐かしむように空の方向を見るヒロ。そこにジェシカがおかわりのスープを入れながら口を挟んだ。

「きっと戦闘機を白馬に見立てた王子様がお忍びで買い物でもしてるんだわ。そうだったら会ってみたいな……」
「ジェシカってば夢見すぎ! どうせヒゲもじゃの成金オヤジが下々の世界を見ようと遊覧飛行でもしてるのよ!」

話を聞いていたジンの顔色が悪くなった。バンは事情をなんとなく察しているが、何か言うべきなのか迷ってしまったのでスープをいただくことにした。

「僕はサイボーグの軍事訓練だと思うな。ヒロ君はどう思う?」
「いいですねユウヤさん! では、僕はセンシマンみたいなスーパーヒーローの出撃だと思います!」

話題は変わり、実家についての話から戦闘機に乗っている人物の正体についての議論が始まった。何やら話がややこしくなってきたが、残りのスープはない。そこに、ヒロが突然バンに話を振ってきたのだから咄嗟にこう答えるしかなかった。

「えっ……ゆ、優雅な老紳士かな? ね、ジン?」
何も、乗っているのが一人とは限らない。ジンの執事はそのような人物なので間違ってはいない。それに同意する形でジンもうなずいた。

「そういえば今年に入ってから戦闘機を見かけないんですが、何かあったんでしょうか?」
「さあ? でもどんな顔したヤツが乗ってるのか一目拝んでみたくなってきたなー……」

今年戦闘機を見かけないというのは、乗っている本人が海外留学を始めてそれが必要なくなったからだ。しかし、ジンは久々に戦闘機に乗ってみたいとは思っていた。

ふと壁の方を見てみると、ユウヤは皿を片付けて伝言板に何かを描き始めた。ペンを持って楽しそうに長い髪や服の裾を揺らし、完成した絵を皆に見せた。

「みてみて! こんな感じかな?」

生い茂るあごヒゲをしたサイボーグが王冠をかぶり、マント一枚(服は描けなかったらしい)で戦闘機と思われる物体にまたがって優雅に手を振っている絵を、ユウヤは誇らしげに見せた。が、にこやかに伝言板を持って微笑むユウヤとは対照的に、他の五人は表情を失った。

何も言わず、苦い顔で席を立つジン。これはまずいと思ったバンが止めようとするが遅かった。

「……バン君、僕はもう我慢できない。ヒロ、その戦闘機は朝と夕方のいつも同じ時刻にグレースヒルズを飛んでいたんだな?」
「え? はい、そうですけど……」

ここで衝撃の事実を聞かされたヒロは口を大きく開いた。今目の前にいるジン本人が戦闘機に乗っていた人物、そのことがすぐには信じられずにいたヒロだったが、証拠写真を見せると反応が急変した。

「やっぱり……ジンさんはかっこいいです」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。そうだ、いつか僕と一緒に戦闘機に乗ってみないか」
「いいんですか!? ぜひお願いします!」
2012/11/25

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