ヒロと二人でオタクの集うギークストリートに出かけて以来、ユウヤはセンシマンにすっかりハマってしまった様子だった。店頭に並ぶフィギュアやコスプレ衣装を眺め、数人のLBXプレイヤーとバトルをした。その一日は勿論ヒロにとっても、ユウヤにとっても有意義なものだった。
戻ってきてからは練習したセンシマンのポーズを忠実に再現して他の四人を驚かせ、仕舞いにはBCエクストラスにまで出場すると言う。その後のことだった。

「食らえ、ビッグバンパーンチ!!」

ヒロがそう言って握りこぶしを前方に向け、ユウヤがその台詞と動作をそっくりに真似する。肘が曲がっていると指摘されると、すぐさまユウヤは腕をまっすぐに伸ばした。

「そうです、その調子です!」
「はい、師匠!」

幼い頃に出来なかったごっこ遊びというものがユウヤにとってはとても新鮮で、人生で初めてのそれを堪能しているところだった。盛り上がる二人をバンとジンは椅子に座り、子供を遊ばせる保護者のように眺めていた。

「ねえ、ジン君たちも一緒にしようよ!」
「いや、僕たちは……」

ジンは困った顔で二人の誘いを断るものの、バンは仲直りの記念に付き合ってみることにした。バンはセンシマンをあまり知らないので、全員が共通して知っているもの、つまりはLBXに扮することになった。

各々の愛機に似せるために部屋という部屋から道具を持ってくると、三人はそれらになりきった。バンはスコップ、まな板、使わないカーテンでエルシオンに、ヒロは二本のホウキと同じくカーテンでペルセウスを、ユウヤは傘とゴミ箱のふた、腰にホースを巻いてリュウビを装った。
わいわいと騒ぐ二人を見てバンも童心に返ったのか、二人と一緒にはしゃいでいる。あれだけ呆れた目で見ていたというのに楽しむバンを、ジンは腕組みをして眺めていた。

「ジンもおいでよ! 小さい頃に戻ったみたいで楽しいよ!」

三人の表情は輝いていて、声色も明るかった。特にユウヤが楽しそうにしていたので、ジンはしぶしぶ腰を上げた。

「ちょっと待っていてくれ」

ジンは準備をしにどこかに行ってしまった。
待っている間に三人は武器代わりのものを打ち合うが、やはり、三人では少し不便に思えた。


「……これでいいんだな」

白いテーブルクロスをマントの代わりに羽織り、モップを持ったジンが戻ってきた。顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯き、おずおずと三人のいる所に向かって歩き出した。

「必殺ファンクション! 白虎衝波斬!」

バンとヒロの方を一瞬ちらりと見て笑みを浮かべると、ユウヤは傘を持ってジンに飛びかかった。その姿はまるでリュウビそのものだった。

「えっ……オ、オーシャン、ブラストでいいのか……?」
「ダメだよ、バトルしてるときみたいにもっと堂々と言わないと! こんなのいつものジン君じゃないよ!」

バンとヒロのケンカ後、ユウヤはしばらく二人で行動を共にしていた。そのためか少し彼に似てきたようにジンは思った。
バンとヒロは声を上げて笑っている。モップを片手に背中にはテーブルクロス、昔執事に遊んでもらったときと同じ格好だ。十年前と同じことをしている、ジンはそれが恥ずかしくてたまらなかった。顔はますます赤くなり、テーブルクロスの白さが一層際立った。

ここで一旦仕切り直し、三人が真剣な表情で各々の必殺ファンクション名を叫ぶ。少々遅れてジンも口を開き、トリトーンの動きを真似して声を振り立てた。


「さっきからにぎやかだけど四人ともまたバトル?」

四人の奇妙な姿を見て固まるラン、続いてジェシカも呆然とした。

「まな板とテーブルクロスがないと思ったら、あなたたちったらこんな子どもみたいなことして……」
「すまない、これには事情が……」


――結局、罰として明日は一日中男子四人で大掃除をすることになった。三人は落胆した表情を浮かべたが、ユウヤが楽しい一日を過ごせたように思えたので、別にいいかと口にした。
2012/07/05

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