イギリスでの任務を終えて戻った夜、なんとなくそんな雰囲気になった。ヒロは特訓がしたいと言って研究室にこもり、ユウヤは風呂に入っている。それは実に好都合であったが、走りに走って足腰が痛く、今日は触り合うだけにした。
お互いが達するまで続けたがそれだけでくたびれた。二人で仰向けになり、意味もなく天井の模様を視線でなぞった。体は重くて動かすのも面倒だというのに表情だけは妙に清々しかった。

「そろそろ二人とも……戻ってくるんじゃないか」
「まだ大丈夫だよ。ヒロはシャワーを浴びにいくと思うし、ユウヤは今日も長風呂だし……」

バンはごろごろとベッドの上を転がった。そして腕を伸ばして二人分の服を取った。
服を着れば一気に現実に引き戻される気がする。少し寂しいが、それでも良かった。勿論こういうこともどちらかといえば好きだ。しかし、今は他にしなければならないことが多すぎる。ほんの数十分一緒に体を探り合う肉体的な繋がりよりも、二人は精神的な繋がりに満足しているように思えた。

少し前まで出していた甘ったるく高い声は低く落ち着いている。先程の睦言とは全く関係ない、二人はイギリスであったことについて話している。風摩キリトのこと、キラードロイドのこと、襲ってきたLBXの大群のこと……他にも話すことはたくさんあった。
会話はどんどん深刻になっていった。そんなとき、ふとバンはジンのある仕草に気が付いた。

「ジンってよく腕組みしてるよね」
「そうかい?」

そう言われて腕を解くジンだったが、喋っているうちに両腕が胸の所まで上がってきた。議論が白熱する頃には、再びジンの腕は胸の辺りで組まれていた。

「ほら、今も。クセなの?」
「……バン君が言うのならそうかもしれない」

別に悪いことではないだろうが、バンは何故か拒絶されているように感じた。
アングラテキサス後、次の恋を探すためにジェシカが読んでいた「癖から見抜ける男性心理」、と書かれた本が面白そうで少し見せてもらったことがある。適当にパラパラとページをめくり、目にとまった腕を組む仕草について書かれた部分を読んだ。ジンがよくしていたからだ。
そのページには『自己防衛をしている、自分の領域に侵入されたくない、拒絶のサインであり他者からの接触を拒んでいる』などと書かれていた。あまりこのような本を鵜呑みにはするべきではないけれど、これらの点はジンに少々当てはまっているのではないかと思った。

自分と正反対の境遇は知っている。出会った頃もこうやって周囲から壁を作っていた。恋人となった今でも完全に受け入れてくれているのかはわからない。
スーパーアーマーを持つハンマーを愛用しているジン。たとえ着ているものを全て脱がせても、見えないスーパーアーマーだけは脱がせられなかった。
ジンは今もここで胸の辺りで組んだ腕で、自分自身を抱き締めて壁を作っているのだろう。
だが、壁を取り払ってその腕に抱かれてみたい。堅いスーパーアーマーを脱がせてみたい。腕が解かれた瞬間に勇気を出して今の想いを口にした。

「ぎゅって、して……?」

行動に移すまで何度躊躇したことか。一気に恥ずかしさが込み上げてきてバンの顔は真っ赤になった。行為に移るまではうまく誘えたのに、こちらの方が難しいなんて変だと思う。
ジンは拒絶しているようには見えなかった。胸に顔を埋めると、一年前はきっちりと締めていた襟元が開いていて少し無防備に見えた。
腕はバンの背中の辺りで組まれている。壁は今作られていないだろう。だから、バンは少し背の高いジンを見上げるようにして唇を押し当てた。


――後でまたジェシカに本を借りて読んでみたら、こんなことが書いてあった。
『仲のいい人の前でする腕組みは、じっくり何かを考えているという緊張感の証明。ちゃんと相手のことは好きだから、相手を尊重してあげればいい』

そういうわけで、バンはジンが腕組みをしているのを見たら安心するようになった。
2012/06/24

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