コーラVSトマトジュース

第四回アルテミス、Aブロック予選を突破したのはヴァンパイアキャットを操る古城アスカだった。白熱したバトルの観戦を終え、ユウヤは控え室へと向かっていた。
同じチームのヒロやランと話し合いをする約束があったのだ。運命の悪戯なのか、ユウヤ達はバン、ジン、ジェシカの三人と同じブロックだった。勝ち進んでいけばいずれ彼らとも戦うことになるだろう。今まで三人のバトルを見てきたが、恐ろしく強い。そのためにも、作戦会議は必要不可欠だった。


人の多いロビーを抜け、控え室に通じる長い廊下を歩く。選手達は皆控え室にいるのか、そこには人影が全くない。
仲間達が待っている控え室のドアをノックしようと、ユウヤはドアの前で足を止めた。が、右手に持ったままの缶ジュースのことを思い出す。アスカが帰り際にくれたトマトジュースだ。控え室では飲食が禁止されている。丁度喉も渇いていたのでここで飲むことにした。
両手で缶を持ち、こぼさないようにゆっくりと底を持ち上げる。本物のトマトの果肉のようにどろりとした感触が流れ込んだ。野菜のジュースを飲むのは初めてだったが、意外とおいしいと思った。
半分くらいまで飲んだところで、誰かに名前を呼ばれた気がした。待ちきれない二人が呼びにきたのだろうか。
いや、そうではなかった。その声は二人程高くない。二人のように弾んだ足音ではなく、少し面倒くさそうな足音だった。足音の主はおそらく「彼」だ。

「ねえ、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」

ユウヤは足音のする方に向かって言った。開会式に出ていた選手の中に彼はいなかった。廊下前には警備員がいたはずだ。一体どうやってここに入り込んだのだろう、と不思議に思った。

「俺は特別なんだ」

キリトは通行許可証を取り出した。彼はアルテミス主催であるオメガダインのテストプレイヤーなので自由にそこを出入りすることが許されているそうだ。
アルテミスは三人と戦える絶好のチャンスのはずだ。なのに何故アルテミスに選手として参加しなかったのか、とユウヤは聞いた。

「……あまり表には出たくないんだ。それに、他の弱い奴らとは戦いたくない」

缶を両手で持ったままユウヤはキリトを見上げた。少し話をして、また口が渇いてきた。残りのジュースを飲もうとしたが、上から缶を抜き取られてしまった。

「あ! 返してよ!」

キリトは手を上に高く上げた。背伸びして手を伸ばしてもユウヤには届かない。ジャンプすれば届くかと思ったが、やはり身長差があるために届かなかった。仕舞いにはキリトにしがみついてまで缶を取り返そうとする。


それから数分後、手が疲れたと言ってキリトは缶をユウヤの顔の前まで持っていく。やっと返してもらえたのかと思ったが、飲み口が逆だ。これでは飲めないと言い返したが、キリトは飲み口の向きを変えることなくごくごくとトマトジュースを飲み始めた。

「……まずい」

キリトは不快そうに眉間に皺を寄せた。床に缶を立てて置き、足を振り上げて一気に踏み潰した。円形に潰れた缶は廊下を出てすぐのところにあるごみ箱に投げ捨てられた。

「……まずいなら飲まないでよ」
「君が何を飲もうと俺には関係ない。ただ、他の奴からもらったものを飲んでいたのが気に食わなかったんだ」

中途半端に渇いた喉を潤せず、少し不満そうにユウヤは唇を尖らせる。それを何の合図と思ったのか、そこにキリトは唇を押し当てる。こうされればもう反論など不可能だ。

控え室からヒロとランのものと思われる笑い声が聞こえてくる。そういえば二人との約束があったことをすっかり忘れていた。しかし、今のユウヤの顔はトマトのように真っ赤になっていた。
どんな顔をして控え室に入ればいいのだろう。トマトの味が長く続いている間、ユウヤはそんなことを考えていた。
2012/05/10

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