途中ややこしいことになりますが最後はハッピーエンド

オタクロスから課された特訓も終わり、バンがシャワーを浴びに廊下を歩いていたときのことだ。シャワールームの近くにトレーニングルームがあった。
明かりが点いていたのでドアを開けてみると、その中に佇む影が見えた。手には二つのダンベルを持っている。それがジンだとわかったバンは嬉しそうに駆け寄った。

「ジン、ここにいたんだ!」
「バン君? 特訓は終わったのかい」
「終わったよ。あれ? ユウヤは?」

一緒に自主トレをしていたはずのユウヤの姿はない。ジンによると、バンがここを訪れる少し前にシャワーを浴びにいったらしい。
床に腰を下ろした二人は特訓や自主トレの成果を話し合い、話の合間にスポーツドリンクを口に含む。オタクロスの無茶苦茶な特訓の内容にジンが笑っている間、バンはジンの使っていたダンベルを持ち上げようとした。が、予想以上の重さに立ち上がれない。

「ジンってこんなの持ってたの!? LBXより重いものなんか持ったことなさそうなのに……」

失言に気付いたときはもう遅かった。軽い気持ちで呟いた一言は、先程持ち上げようとして失敗したダンベルとは比べ物にならないくらい重いものだと感じた。

「……君に僕はそんなに頼りなく見えているのか」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ……」

必死の弁明も意味を持たなかった。ジンはバンの方を見ず、黙ってダンベルの上げ下げを機械のように繰り返している。何も言わずとも、怒っているのは明らかだった。
謝れないまま、バンは頭を冷やそうとランニングマシーンに向かった。ここから出て行けばいいものを、厚かましくも居座っている、そのことに少しの罪悪感を感じつつも無心で走った。前しか見ないように目隠しをされた競争馬にでもなったような気がした。

行為においては触れ合うだけで満足し、挿入までには至らないものが多い。しかし、最後まで行なう場合には体の相性的に少し差がある。そんな関係のせいでもあるが、「ジンは俺が守る」と言ったあのときから、ついか弱い女の子のように扱ってしまうことがよくあった。

どういうタイミングで謝ればいいのか、そればかりを考え足も重くなっていく。とぼとぼと俯き加減になりながら足を動かしてはいるが、順調に数値を上げていた機械の表示部はどんどん下がっていった。
ついには足を止めため息を吐いた。そして、もやもやと気分が晴れないままスイッチを切った。

これからどうすればいいのかと途方に暮れていたバンの隣で足音が聞こえる。振り向くとジンはずっとこちらを見ていたのか目が合った。これを逃せばもう謝れないかもしれない、そんな思いでバンはきちんとジンの目を見て謝った。

「僕もすまなかったと思っている。僕はLBXがなければ非力な人間かもしれない。……それが嫌でLBXの腕だけでなく自分自身も強くなろうとここに来たんだ」

ようやく二人は和解したようだった。
バンはランニングマシーンのスイッチを入れ、再び歩き出した。隣を見るとジンは小走りになっている。バンは負けじとスピードを上げて大股で走り出した。それに気付いたジンもまたスピードを上げた。それが二人の闘志に火を灯したのか、どちらが長く走れるか競争することになった。
バトル同様負けず嫌いな二人のことだ、こちらも実力は拮抗していた。バンの腰に巻いていた上衣は横に投げ置かれ、ジンも上は中のシャツ一枚になった。
水分を摂る余裕もなく二人はひたすら足を動かした。結局、二人ともくたくたになるまで走り続けた。バンが限界になって突っ伏していると、ジンが冷えたドリンクを頬に押し当ててきた。
走りに走ってふらふらして目の焦点が合わないのか、それともまた別の理由なのか、どういう訳かバンはジンの顔を見ていない。ジンはどこか上の空なバンを不思議に思い、少し減って返ってきたドリンクを飲んだ。

タオルで汗を拭き取っていると、静かに何かを語ってくるような強い視線を胸元に感じた。下を見ると、汗でシャツは肌に貼り付いて中が透けていた。
バンは何事もなかったかのように汗で湿り気を帯びたシャツの首元を持ち、ぱたぱたとあおいでいる。人のことを言えないだろうとジンはバンを見詰め返してやった。
すると、バンが寄ってきてお互いの透けた部分が触れ合った。運動で上昇した体温には心地よい冷たさが伝わった。

「こういうことは……その、シャワーを浴びてからにしないか」
「じゃあシャワー浴びてからする? それとも中で……」
「……バン君、さっきからどこを触っているんだ」

バンはうきうきした顔で、ジンは少々呆れた顔でトレーニングルームを出ていった。
2012/06/09

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