▼スガタク?
若干の死ネタ表現あり?
シリアスなような、ほんわかなような。

















大丈夫、大丈夫。
痛くも痒くも無いんだよ。





「…――ッ、馬鹿!」

ぼんやりとした視界の端に、スカイブルーを捉える。緩慢な所作を以て視線を移せば、涙を流す、綺麗な金色の双眸が其処にあった。止め処なく流れ落ちる雫に、哀しくなる。手を差し出して拭おうとするも、僕の両手はぴくりとも動いてくれなくて。
ああ、そうか。
靄が掛かっていた思考が、やっと晴れた。そうだ、僕は…――

「なんで、僕を庇った!僕は…僕は、そんな事望んでやしなかった!なんでだ、答えろタクト!」

周りの友人や医者が止めるのも気にせずスガタが僕に掴み掛かる。凄い剣幕だな、と他人事のように思い、何故か笑えてきた。凄く面白くて、思いっきり笑いたいのに僕の口角は可笑しくなっちゃったみたいで、ただ、僅かにぴくりと震えただけだった。

「大丈夫、大丈夫。」

僕の、呼吸器に覆われた口からかすれた声が漏れる。安心させようと出したそれが、思った以上に酷く掠れていて自分でも吃驚してしまった。これは失敗だなぁ、悲痛に顔を歪める皆の姿を見て淡々と思う。でもどうしてそんなに悲しそうな顔をするんだろう、僕はただ皆に笑ってて欲しいだけなのにね。

「頼むから、生きてくれ」

絞り出したような声に、胸がじくじくと痛んだ。怪我の痛みよりも、何よりもその言葉が胸に突き刺さって。
気をつけなければ、泣いてしまいそう。


大丈夫、大丈夫。
君が笑ってくれるなら。


「大丈夫だなんて、そんな悲しい嘘は、もうつかなくていいんだタクト」

優しい言葉に甘えてなんていられないよ、大丈夫。僕は大丈夫だからと精一杯緩く首を振り、笑みを浮かべる。良かった、今度は、ちゃんと笑えた。

「たったひとつの嘘も、ついてなんかないよ」

掠れた声で、告げる。たった一言なのに、声を発するだけで息があがってしまった。なんでこんなに苦しいんだろう。
僕の様子をじっと無言で見据えていたスガタが、恭しく僕の掌を取り、自分の頬に宛て震える唇を開く。
掌に感じる、暖かい雫の感触。スガタの声に段々と視界が歪んでくる。泣いちゃいけないんだ、だって僕は。


「君はもっと泣いていいんだよ、…僕も一緒に泣いてあげるから」

ゆっくりと優しく、目許を食指で拭われる。微笑んだまま涙を流すスガタを見詰め、思う。

「僕、君の泣き顔、はじめて…みたよ」
「――…僕だって、同じだ」


そうか、僕は泣いても良いのか。…なんだかとても幸せな気分だなぁ。今までの人生の中でいちばん、幸福な時かもしれないよ。こんな幸せに、眠れるなんて。微かに吐息を震わせながら、目蓋を下ろす。皆が何か言ってるみたいだけど、上手く聞き取れないんだ。ごめんね。でも此れだけは本当だよ。



ツナシ・タクトは幸せ者です。



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一部台詞はとある唄の歌詞を引用させて頂きました。




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