「写真…?」 窓側の席で懐中時計を眺めているタクトの背後から問い掛ける。 緩慢な動作ながら振り向いたタクトがスガタを見やりこくんと頷く。折角だから、とずっと気になっていた質問をタクトに投げ掛ける。 「それ、誰の写真なんだ?」 嫉妬では無い。ただ、気になったのだ。 誕生日に必ず直しておきたいと言っていた時計に入っている、――淡く長い水色の髪の、女の人が映る写真。 その人がタクトにどんな影響を与えているのか、気になった。 静かに懐中時計へ目を落としたタクトが時計の蓋をぱたんと閉じる。 「――…母さんの写真なんだ。全く覚えて無いんだけど、ね」 質問の後、どれ位か解らないが時間が流れ、帰ってこないだろうと諦めていた返事が突然返ってきた。 驚きに双眸を瞬かせながらもタクトの言葉に納得する。 ――タクトの母親。 先程見た写真を思い出しながらタクトの言葉を反復する。 雰囲気は似ていたが顔は余り似ていなかった。きっとタクトはこの島に居るという父親似なのだろう。 そして、ふと思った。 母親の写真を今時珍しく懐中時計に入れて大事に持ち歩く理由、は。 「スガタ」 思考に耽る自分の名をタクトが紡ぐ。首を傾げ先の言葉を促すと笑顔で(何処か哀しげな、痛みに耐えているようなそれに胸が痛くなる)呟く。 そんな哀しい笑顔、見たくない。若干目を臥せタクトから視線を外した。 「ありがとう。」 (さようなら。) 何かの言葉と重なって、二重に聞こえた感謝の言葉。 直ぐに椅子を引きタクトが席を立つ気配がする。 ――…彼をひとりで帰しては、駄目だ。 直感でそう思ったのに、何故か身体が動かない。 止める間も無く、無情にもガラガラと音を立て開閉されたドアは完全に閉まり切り、それによってタクトと自分の絆のようなもの迄寸断された気分。 行き場の無い感情を持て余したスガタは一人、夕焼けに彩られ静まりきった教室の中。 「 。」 呟いた言葉は重すぎて、背負う事も捨てる事も出来ず。 自分を守るために彼のような真っ赤な夕陽を、彼の代わりに愛する事に決めた。 ――――――――― 眠い時に書くと何が書きたかったのか解らなくなった、とか。 |