▼ワコ←スガ←タク













「スガタのいま、一番欲しいものって何?」
「…凄く唐突な質問だな。どうしたんだ?」
「いいから、答えてよ」

家へと向かうバスに揺られていると、隣に座っていたタクトが質問を投げ掛けてきた。
意図が解らず困惑するスガタを、タクトはただじっと見詰めたまま回答を待つ。
結局根負けしてしまう自分はつくづくタクトに甘いな、と溜息を吐きながらスガタが口を開く。


「一番欲しいもの、か。……取り敢えず制限の無い日常、かな」
「――…制限、の無い?」
「巫女とか、王とかそんな理由に縛られない世界が欲しい。」
「…そっか。」
「聞いてきた割に反応は薄いんだな」
「……ねえ、遠回しに言うのもあれだから、単刀直入に聞くけどさ。それは、ワコの、為?」
「……」
「あ。聞いてどうこうしようとか、そんなつもりは無いから。僕、ワコの事友達としては好きだけどそれは所謂《like》であって《love》じゃない。恋敵にはならないから、安心してよ」


横を見ればにこやかに口角を上げ首を傾げているタクトの姿。
笑っていても質問自体は真剣にしているようで、じっと此方を見詰めて回答を待っている。

そんなタクトから一旦視線を逸らし、窓の外の景色を眺めながら思案した後、ゆっくりと相手の言葉を肯定するよう頷いた。



「――ああ。」
「だと思った。スガタは本当分かり易いよな」
「そんな事言うのはタクトぐらいだけど?」
「え…そう?流石僕、イッツ・ア・クール!」
「自分で言うと説得力に欠けるし、タクトはクールな方じゃ無いんじゃないか?」
「酷っ!スガタのばか!」

タクトは冗談混じりの口調で沢山の揶揄と、少しの《本当》を言葉の中に散りばめて。

何処か寂しそうに笑った。



「あ、僕降りなきゃ」

そんな雰囲気を切り裂くように車内にタクトの降りる駅の名前がアナウンスで流れる。スッと席を立ち鞄を背負ったタクトがスガタに声を掛けた。



「じゃ、また明日」

「…――ああ、また明日」


そうして手を振りバスを降りるタクトを笑顔で見送った。
















下車後、暫くして背後を通過していくバスの気配を感じながら、タクトは唇を噛み締める。
スガタがワコの事を想っている事なんて初めから解っていた、解っていたはずなのに。


「なんで、」

――涙が溢れて止まらないんだろう。

目尻を擦れば擦る程、次々と溢れ出る涙の止め方が解らず途方に暮れる。


暫くそうして立ち尽くしていると、曇っていた空から、ぽつりぽつりと水滴が降ってきた。

自分の涙を隠してくれるそれに心の中で感謝しながら、甘酸っぱい、檸檬のような淡い恋心に蓋をする。








願わくば、僕の好きな彼と、そんな彼が好きな彼女が幸せでありますように。





死にゆく愛の吐息
(彼と彼女の幸福が、僕の)



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