南の島だからと言って冬の寒さを舐めてかかったら大変だとタクトは目の前の景色を見て再確認した。一面を白く染めるその物体が降り注ぐ様を双眸を見開き一心不乱に見詰める。

「へぇ、雪か。僕も久しぶりに見たよ…何年ぶりかな。」
「南の島でも雪って降るもんなんだね、知らなかった。」

教室の窓際で二人外を眺めながら放課後自分達を除けば誰も居ない教室で深く溜息を吐く。今日は演劇部の活動も、さしたる予定も無かった為体調不良で休んだ生徒の代わりに日直の仕事をしていたのだが、その間に降り出した雪は見る見る内に強く吹雪始めていた。
…全く、これでは寮へ帰るに帰れない。外よりは幾分かましだろうが教室の中も充分と言って良い程寒く、吐く息は白みを帯びていた。少しでも暖を取ろうと両手を合わせ息を吐き掛けつつスガタの様子を横目に見れば困った様に肩を竦めながら苦笑している。

「どう、しよっか。帰るに帰れない状況だよね…これ」

外へ出るにも吹雪の中を歩くのに、僕達の服装は余りにも薄着過ぎて吹雪の中の帰宅は躊躇われた。選択肢を次々と潰し最終的に出るであろう結論に薄々感づきつつ有った僕は二度目の溜息を吐いた。




「学校で雪が止むのを待つにしてもさ、寒過ぎでしょ。今手元に防寒グッズが有る訳でも無いし…保健室にでも行って布団借りない?」

気持ちを切り替え教室を後にした僕達はこれからどうするか、何処へ向かうかを考えていた。僕の提案にスガタは一瞬渋い表情を浮かべたが直ぐに頷き同意を示し、ならば職員室で鍵を拝借しようと目的地に向け先々歩を進める。
一瞬不自然に歪んだ表情に首を傾げ少し違和感を覚えながらも僕はスガタの後に続き職員室へと向かった。

鍵を差し込み保健室の扉を開ければそこには暖房器具とベッドが鎮座していて、暖を取るのには充分な物が揃っていた。ヒーターのスイッチを入れベッドに転がり、部屋が暖まるのを待つ。

「タクト、」
呆っと窓の外に広がる一面の雪景色を眺めていると突如名前を呼ばれると共に肩を掴まれベッドへと押し倒される。状況処理の追い付かない頭で、「…なん、で?」と疑問符の付いた呟きをするのが精一杯だった。だって、表情を歪め今にも泣きそうな…こんなスガタを見るのは初めてで。

「…何処にも行くな。」
「僕が何処に行く、って言うの?」
「解らない、だけど…」
徐々に距離が近付きお互いの吐息が掛かる程迄にもなれば、自然に唇を合わせる。雪の様に触わると直ぐに溶けてしまうような、触れるだけのキス。何故か熱くなる目頭には気付かないフリをした。




「――…雪を見詰めるタクトの横顔が、凄く儚く見えて…消えてしまいそうだったから、かも知れないな。」


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