なんそんなに
   馬鹿


   

シロップを溶かしたような青で澄み渡る空、わたあめを浮かべたみたいな雲、飛び交う鳥はこんぺいとうのよう。でもこいつらはそんなあまったるい関係ではなかったりする。


「獅郎さん」
ぽりぽりぽり
「獅郎さん」
ぽりぽりぽり、ずずーーっ、ういー。
「獅郎さんってば」
「なんだよっせーな」
ソファの上でふんぞりかえって大層めんどくさそうに顔を上げた藤本。そんな彼の不遜な態度を見、眉間にシワを寄せるのは「本人曰く正装」らしい奇抜な服に身を包んだ悪
魔、メフィストであった。
「どうして私の部屋でお菓子をむさぼり食っているんです」
「そりゃあれだ、オメーがこんな魅力的なもん机の上に置いてっから、てっきり食って欲しいのかと」


獅郎がつまみ上げた袋、本日のティータイムのお供は「そばこボーロ」。蕎麦粉を使用した素朴な味と噛み砕いたときに広がる優しい甘みが評判の隠れた日本菓子の一つであ
る。日本のモノに目がないメフィスト氏が取り寄せたはずのものだが、ちょっと席を離れた隙にそばこボーロは目の前の野獣の腹の中に収まってしまった。誰か猟師さんを連
れてきてこの狼からそばこボーロを救い出してやって欲しい。


「そんなわけないでしょうあなた御馬鹿さんですか」
ああ失礼、聞くまでも無く大馬鹿様でしたねはっはっはいや私としたことがとんだ無礼を。そのうえ子煩悩で戦闘狂でセクハラ親父ですしもう非の打ち所が無いくらい残念な
頭のつくりを為さっているものですから。いやね、最近あなたの顔を見なかったもので、すっかり失念していましたよお〜ウフフフフ
「その頭ブチ抜いてやろうと何度思ったことか・・・」
「やれるものならやってごらんなさい」
言いたいだけ罵倒してにんまりと笑うメフィスト。獅郎の顔がヒクつく。
「うわその顔スゲーむかつくー」
あははうふふと笑いあうが両方目が笑ってない。こんな軽口が叩き合えるのも、仲がいい証拠なのだが。



「その後のお子さん方はどうです?・・・やっぱりいいです」
「なんでだよ聞けよ」
若干不満そうにぶーたれる獅郎。かわいいかわいい双子の育成奮闘記を語りたくてうずうずじているらしい。そんな獅郎に向かって、はあ・・とため息をプレゼントするメフ
ィスト。
「だってあなたお子さん方の話しだすと止まらないでしょう」
うんざりした顔。
「まあそりゃな」
とてもいい笑顔。
「うざいのでやめてください☆」
「お前の星もうざいのでやめてください☆」
・・・・・少しの間流れる沈黙。メフィストがぽつりとこぼす。
「私と居るときぐらい、私の話でもしなさい」
「・・・・・・・え」
普段たれ気味の目を真ん丸くして目の前の友人を凝視する。見られている方はといえば・・・
「・・・・・・・あ」
しまった・・・!
「・・ぶっ!!」
途端に噴出す獅郎。メフィストがうっかりこぼした言葉の意味に気づき笑いが止まらなくなる。
「うはっはははっはははははなーーんじゃそりゃ!!オメーまさかガキどもに嫉妬してんのかあ?一体いくつだよメフィストおじいちゃんよお!!」
「くっ・・・!!」
大爆笑の獅郎。屈辱と羞恥に顔を染めるメフィスト。この男の前でなければこんな失態はしなかったと、後の彼は語る。
「うひひひひひいいっっあー無理超無理マジ腹筋死ぬわっはははいやいやなかなかどうしてかわいいじゃねえのおじいちゃん!」


確かに獅郎からすればメフィストは大いにご年配であるが彼の態度はおよそ年上を敬うそれではない。からかわれ続けてメフィストも堪忍袋が爆発したのか声を荒げる。
「しつこいです!消し炭にして差し上げましょうか?!」
後ろに黒いオーラが見える気がする。腐っても悪魔ということだろうか、流石の獅郎もやばいと直感し宥めに入った。
「おお怖っ!キレんなキレんな。ちゃんと構ってやるよ。老後が心配だモンな〜」
よしよ〜しいい子だいい子だ。触らないでください加齢臭が移ります。
「老後の心配したほうがいいのはあなたの方でしょう」


ふんっと鼻を鳴らして手を振り払う。しかし、自分の言ったとおりこの男もいつか時の流れに負けて朽ちていってしまうのだ。悪魔祓いに長けてはいるがその体力と肉体は全
盛期と比べるとやはり衰えをしっかり感じることが出来る。ただでさえあの双子にうつつを抜かし、さらには常に魔神に肉体を狙われている。心配で気が気でないとは、一生
口に出してやらないけど。彼の生きた年数なんて自分の人生(悪魔生?)の半分にも満たない時間だが、彼とともに過ごした日々、見てきたもの、感じたことはまさに・・・
「こいですねえ・・・」
「あ?鯉?」
「もういいです、黙っててください」


獅郎を一蹴すると、再びティータイムを楽しむ為に紅茶を淹れる準備を始める。二人分と少し大目の湯を沸かし、その間にティーセットと茶葉缶を取りにいく。術で出しても
いいのだがお茶の時間をなにより好むメフィストのこだわりで、いちいち自分で動いて手間隙掛けたお茶のほうがおいしさも一塩だという。あっちこっちちょこちょこ動くメ
フィストを見た獅郎が口角を上げる。
「余裕無くなるとすぐ話終らせようとするとこ、変わってねえなあ」
「・・・・・・」
無視。ケトルで沸かした湯をポットとカップに注ぎ、器を温める。ミルクも弱火で温めておき、茶葉を二人分に分ける。準備完了。獅郎はこりずにメフィストをからかう。
「拗ねんなよ」
「拗ねてません」
訪れる沈黙。それは決して苦しいものではなく、むしろ心地よく。
「・・・・・ぷっ」
「くくく・・・」
ほぼ二人同時に噴出す。さっきまでカリカリしていたメフィストも少しは機嫌が直ったらしい。年を取っても感情が操作できないのはこの男の前だけだと、後にのろけること
があったらしい。獅郎はくつくつ笑うとメフィストに催促する。
「おいばーさん茶」
「はいはいおじいさん、今淹れてますよ」
ポットの湯を捨て、茶葉をポットに入れてから熱湯を勢いよく注ぐ。蓋をしてあとは待つだけ。
満足そうなメフィストを横目に獅郎が切り出した。
「よし、じゃあ一つこんな話をしてやろう」
「はあ・・」
少々怪訝そうな顔をしているが、獅郎の向かいのソファに腰掛け聞き手に回る。


「むかーしむかしある所に、それはそれはとてもハンサムでかっこよくて素敵な男が居ました」
「ダサくてキモくて足がくさい男の間違いでしょう」
「黙って聞け!・・・・えー男はある日ふと思いました。そうだ、嫁探しに行こう。俺みたいなすごい男に似合う、かつ俺を包み込める優しさを持った、そんな女がいい。思
い立ったが吉日ということで、早速男は嫁を探しに出かけました」
クッキー缶の中を見ると量が減っていた。また食ったのかこいつ、という目でじとっと見られてもそ知らぬ顔で続ける。


「男はまず町に行きました。この町にはとても料理が上手い女が住んでると噂されており、男は食べ物が好きだったのでその女を探しました。しかし探せど探せど女は見つか
らず、加えてこの町に住む女は皆料理が下手だったのです!絶望した男は次に村へ行くことにしました。男の後ろでくすくす笑っている悪い魔法使いに気づかずに・・・」
眉根を寄せるメフィスト。そんなメフィストを見、にやりと笑うと再び饒舌に語りだす。


「村へ着いた男は裁縫が上手な女の話を聞き、男はすぐ服を駄目にしてしまうのでこれは良いと思い、村の家々を一軒一軒訪ねて女を探しました。しかし探せど探せど女は見
つからず、加えてこの村に住む女は皆裁縫針すら持っていなかったのです!悲しみにくれた男は次に森の奥にある小屋へ行くことにしました。男の後ろで期待を膨らませた目
をしている悪い魔法使いに気づかずに・・・」
ソファに深く身を埋め、しかし上品に足を組みかえるメフィストはあくびを噛み殺した。


「人里はなれた森の奥でひとり暮らしている女は、もうこの世のすべてを手に入れたので世界に興味が無くなってしまい、自分の退屈を消してくれるモノを探しているそうで
す。それを知った男は、これはいい!俺みたいな完璧な男と一緒にいればその女は退屈を感じる暇なんてなくなるに違いない。そう思った男は森の奥をさまよい続けてようや
く、小屋をみつけました」


獅郎は男と女の声を演じ分けて台詞を言う。
「『ごめんください。』『誰ですか。』『お前がこの世のすべてを手に入れた女か。』『いかにもそうです、私はこの世のすべてを手に入れましたから、あなたがここに来る
ことはわかっていました、花嫁を探しているのでしょう。』『知っているなら話が早い、俺の嫁になれ。』『いいですよ、でも条件があります。』『なんだ、言ってみろ。』
『私は・・・』」

「『魔法使いなのですが、よろしいですか?』」

遮ったのは聞き手の唇から紡がれた音だった。語り手はあああ!と声をあげる。
「言うなよ馬鹿!!!って、なんで知ってんだ?」
小馬鹿にしたような目で獅郎をなじる。
「あなたの短絡的な思考なんて読めますよ。大方その女が男を後ろから見ていた魔法使いの正体で、思い上がった男を使って遊んでたんでしょう」
「ぶっぶーはっずれー」
ざんねんでしたーまたらいしゅー。子どものような獅郎を無視してメフィストはおやと予想が外れたことにほんの少し意外を感じた。正解はなあ、獅郎が言う。


「確かに女は魔法使いなんだが、あんまりにもひねくれた性格だから素直に男に告白できなくて、この世の魅力的な女をみーんな消しちゃったんだなー。で、男が自分のとこ
ろに来るように差し向けたっていう話。最終的に魔法使いは男と幸せになりましたとさ、めでたしめでたし」
拍子抜け、というか間の抜けた、そして気を抜かれたメフィストがつぶやく。
「なんですかそれ」
ふふん!と偉そうに鼻を明かす獅郎。
「素直に口で言えばいいのに、無駄にややこしい手間かけたあげく男に手篭めにされちまった魔法使いの話だよ」
キッ、と目の前の男を見るメフィスト。
「誰も手篭めになんてされてません」
「誰もお前のことだなんて言ってねえぞ」
しまった・・・本日二度目の失態。もう黙っていたほうがいいのではないかと考え始めた。
「・・・・・・・」
「どうしたのお前、今日調子悪いわけ?」


本気で心配しだしたのか、うつむいてしまったメフィストの顔をおーいと覗き込む。メフィストは近くに迫ってきた男の鼻をぐぐぐっと抓る。うおおおと声を出して離れる獅
郎。
「そうかもしれませんね、はあ・・・・おや」
はた、と思い出したように時計を見た。そしてポットを見た。
「ん、どした」
いててと大げさに鼻頭をさすりながらメフィストに視線を送る。当の本人は残念そうな顔をしていた。
「私としたことが、ウッカリウッカリ」
「なんだよ、っておおう・・」
メフィストの開けたポットの中に入っているアッサムは、茶葉が開ききっており色は紅ではなく茶に染まってしまっていた。そう、獅郎の話に耳を傾けているうちに、紅茶を
楽しむのに最適の時間はとっくに過ぎてしまっていたのだ。すっかり色の変わってしまった紅茶をカップに注ぎ、口に含んで一言。
「ふむ・・いやあこれはこれは、こいですねえ」



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(濃い? 故意? 恋!)
(やっぱりあまあまじゃねえか)




11/5/7

はい、藤メフィでした!これ藤メフィか?!
一緒にお茶飲んでたらこいつらかわいいよね・・・てことで書いてみたけど
別にこいつらお茶飲んでねえよ・・・!!

原作でもこいつらの馴れ初めとかやってくれよ気になるんるん・・てそうか、気になるなら捏造しちまえばいいんだ。
そばこボーロ食べたのは私です。めちゃ美味かった。でもすぐ飽きが来る味でした。
あとお茶駄目にしたのも私ですーなんだこれただの実体験なの^p^

ジジイの前でだけ余裕が無いメッフィー、すごく、大好物です・・・
あとアニメッフィー見ました、死にました。
神谷さんや・・・もう神谷さん以外無理でござる。

こ、こちらは私の藤メフィにまっさきに反応を示してくれてコメントくださった
彩様に、贈ろうと、思います!ごめんなさいこんなんでごめんなさい。
文句とか書いて欲しい話とかもしあったら拍手からお願いしますん!
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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