瀬見誕2016



 十一月前半にして吹き付ける寒風にマフラーを締め直した瀬見英太は、隣を歩く神木を見遣りため息を吐いた。

「んー、さみぃなあ」
「馬鹿かお前。今からそんなに重装備だと冬場に死ぬぞ」
「馬鹿は瀬見だろ。もう冬だ」

 間髪入れずに返された馬鹿という単語に腹を立てつつ、両手をブレザーのポケットに入れた瀬見は今一度赤倉の装備品を確かめる。
 マフラーに手袋、厚手の黒いコート。ブレザーのポケットにはカイロが入っていると言っていたか。これはもう誰がどう見ても完全装備だと言うだろう。

「もっと寒くなったらどうすんだ……」
「ニット帽被るし、靴下は二枚重ねにする」

 教室は基本的に暖房が効いてるから困るのは廊下だな。そう言って笑う神木は瀬見の背後に回り両脇に手を突っ込んだ。
 ゴスリ。予測済みだとでも言いたげな瀬見は容赦無く頭突きを繰り出し、頭を打ち付けた神木の目には薄っすらと涙が浮かぶ。

「バーカ」
「お前は今日一日ポッキー&プリッツで可哀想なことになるだろう!」

 誕生日おめでとう。言い逃げするかのように走り去った神木を追いかける瀬見は自然と上がる口角を隠すようにマフラーを振りほどいた。

「ありがとうな!!」

 帰宅部の全力疾走にすぐさま追いついた強豪運動部のベンチメンバーは嬉々として叫ぶ。肩で息をしながら鬱陶しげに笑った男は「お前、足早すぎんだよ」そう、小さくボヤいた。

「何かねえのかよ」

 誕生日プレゼント! せがむ本日の主役のカバンを指差し、上手く誘導した部室内では彼の部員が瀬見英太を心待ちにしている。

「愛され者は違うねぇ」

 瀬見の手によりぎゅうぎゅうに締められた二本のマフラーを緩めて背中を押し、柄にもなくそんなことを言ってみせた神木は一人教室へ向かいつつ、ガサゴソと菓子の袋を開封する。

 ――それはこの日、中々注目されない方のイベント菓子。白い息を吐いてぱきり、静かに咀嚼する。


知らねえよ、部活に恋する奴のことなんて。
20161111

瀬見誕2016




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