何でこうなるの



友情<BLD



僕には好きな人がいる。

そう前置きしたとて、誰もが驚くだろうその相手は同性で、その上僕も至って普通の男子高校生だったはずである。何がどうして彼と短い休み時間に話し、彼の部活のない日には一緒に帰るような仲になったのかは甚だ見当がつかない。それでもセットしているのか寝癖なのか分からない黒髪や、バレー部員と紹介を受けても見た目から納得出来る高い身長や体格、夏服で露わになる腕の筋や無骨な手はどう見たって格好良くて、そんな彼の隣に並んで歩くのは未だに躊躇ってしまう。

初めて彼を見たのはいつだったかな。
初めて彼と話したのはいつだったかな。
目で追うようになったのはいつからだったかな。

いっそ僕が誰から見ても可愛いと言われるような女性であったなら、想いを伝えることなんてずっと簡単だったのに。もしも僕がこの学校に進学しなかったのなら、こんなことが起こるはずだってなかったのに。ポンポンと、まるで幼子をあやすかのように僕の頭を撫で、長い指で顎を掬い、ニッといつものように笑った僕の想い人は最早憎らしい。

「いつにも増して暗いな、何かあったか」

心配そうに聞く彼に、君のことで悩んでいるだなんて到底言えるはずもなくて、いつも通りだよ。何て分かりやすい嘘を吐いた。あわよくば気づいて詮索してはくれまいかと願いながら。
けれど僕は彼がそんなことをするような人ではないということを知っているから、今は一度、彼への想いに蓋をする。伝えたところで、困らせてしまう。

「これから部活?」
「いや、今日部活ないからもう帰る」

もたもたしてると置いていくぞ。ニッと歯を見せて笑いながら背を向けた想い人に慌てて立ち上がり、スクールバッグを肩にかけ広い背中を追いかける。伝えたところで困らせてしまうことなんて、友情関係すらままならなくなってしまうことなんて分かりきっているけれど。だからこそ、こんな逃げは今日で終わりにしよう。

「僕は君に伝えなければならないことがある」

学校を出て暫く歩いた帰り道、丁度帰路の別れる道へ出るまでいつも通りの他愛ない、友達として最後の話をして、嗚呼、今までのことは全部都合の良い夢だと切り捨てなければならないと、きっと彼へ向ける最初で最後の真面目な顔で切り出した。いきなり変わった空気に釣られて真面目な顔をした想い人の顔も、僕へ向ける視線もこれで最後だと思うとズキリと胸が痛んだ。
もしも、僕の都合の良い答えが返ってきたのなら。そうでなくても、友情関係が崩れないような答えが返ってくるのなら、救われるのだけど。

「僕は鉄朗のことが好きだよ」

はっきりと、真っ直ぐ彼を見てそう言えば、嫌いな奴とわざわざ一緒に帰ったりしないと友達としての肯定を受け取り首を横に振る。友達としてじゃなく、好きだよ。笑顔で友情関係の決裂を切り出せば瞠目した想い人。悪い、そんな風には見れないと言い切ってくれたその人に幾らか救われて、けれど僕は二度と来ないまた今度をその人に投げかけて逃げるようにその場を後にした。


次の日からよそよそしく、滅多に話しかけなくなったその人に、彼の本音が見えた気がして、諦めていたくせに、分かっていたくせにズキリと痛んだ胸に、どこか期待していた自分を理解し苦笑い。これでよかったんだ。僕の初恋は異例の同性で、結ばれることは初めからなかったんだから。

息を吐いて彼がいることで楽しかった過去の記憶を反芻する。これでよかったんだ、これで。だけどこんなことで落ち込むなんて僕らしくもないから、目が合ったその人にはひらひらと、以前と変わらず手を振る。

困惑気味に歪んだ顔さえ格好良い彼は、この数日後に美人で知られる同級生の女子生徒と付き合い始めたらしい。あの子に取られてしまったか。もともと僕のものでもなかったけれど。


それが普通であると飲み込んで。
(僕に泣く権利はない)
20151028

何でこうなるの




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