世界はいつでも美しい



それは、世界に光をもたらす彼女に断言するのは難しいことであった。
けれどそれはこの世界で曲げようのない事実であって、それなのに彼女はそれを否定して、一般人と自分たちフェンリル被害者が見る景色が同じであることなど有りはしないのだと痛感する。

目の前で笑う歌姫の目には、何が見えているのだろうか。
フェンリルから庇護を拒否された側の人間の目に、フェンリルの駒たる自分たちはどう見えているのだろうか。

哀れな人間?それはどっちだ。
憎く罪深く恨むべきフェンリルのゴットイーター?それに頼らねば生きていけないお前らが言えたことか。

ゴットイーターも、庇護外の一般人も同じフェンリルの被害者であるというのに、なぜこうも違うのか。
そんなものは明白で、選ぶことの出来ない選択肢と武器を与えられ自ら死にに行くことを命じられた人間と、選ぶ権利も与えられず身を守る術すら存在しない死を待つ側の人間の違いである。

どちらがより“可哀想”であるだろうか。

共通点も相違点も上げれば幾らでも出てくるのに、庇護外の人間は総じて自分たちだけが被害者であるという顔をするのだ。
目の前で笑う彼女は今は守られる側であり、二種類の被害者の現状と本来そこにいたのならば知ることのない現実を知っている人間である。

しかし自分は、その彼女が紡ぐ言葉を容易く信じようなど思える人間ではない。
何故ならば彼女の言葉はあまりにも綺麗すぎるから。
今も昔も守られる側の人間であるから。

ああ、彼女の言葉も彼女の目も真っ直ぐで偽りではないはずなのに、その全てを否定する自分は何なのだろうか。
頭の中で彼女の言葉を反芻し溜め息を吐く。


俺の目に映る景色はそんなものではない。
20140616

世界はいつでも美しい




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