アイビー
「ノア、今日はギラティナさんに何を贈るの?」 「ヨールッ」
反転世界の片隅に作られた、ギラティナさんの箱庭で、ヨノワールと私のタマゴから孵ったノアは、花冠を一生懸命に編んでいた。
「駄目よノア、そんな大きさじゃギラティナさんの頭には乗らないわ。…せめて1mはなくちゃ」
ノアは不思議そうに、私の顔を覗き込む。その表情が、かつてのヨノワールとかぶって、私は胸がずきりと痛むのを感じた。
私はヨノワールの審判以来、ずっとここ、ギラティナさんの箱庭で過ごしている。
不思議と、ノアが成長するにつれて、ヨノワールと過ごした幼い日々に想いを馳せることが多くなってきていたのだ。ノアの赤い瞳に、ヨノワールの面影を感じることも少なくはない。 ふわりふわりと私の周りを舞うノアは、そのことを全く知らない。私はノアの頭を撫でると、ふふっと笑った。
「よし、じゃあ、私は反対側から編むから、ノアはそっち側をお願いね!これは大仕事になるわよ」
私は箱庭の花を摘み取る。これは確か、アイビーだったか。確か、「永遠の愛」だかなんだか、結婚式のモチーフにも使われるような、可愛らしい花言葉だったような気がする。
「…ノア?」
気づくと、ノアが私の背後に回り込んでいた。驚かそうとしていたのだろうか、声をかけられて逆に驚いたノアは、摘んでいた花をばらばらとその場に取り落とした。 慌てて花を拾い直すノアを見ていると、ヨノワールの丸めた背中を思い出して、自然と笑みがこぼれる。 ヨノワールは今、どうしているのだろうか。『悪いようにはしない』というギラティナさんの言葉を信じて、私はいつまでだってここで待っているつもりだ。あの日のヨノワールの行動の真意が聞けるまで、私の行いを謝れるまで…
「よしっ、このくらいの大きさならもういいんじゃないかな?」
編み終えると、すっかり日が落ちていた。ここ、反転世界には、箱庭にだけ昼夜があるらしい。これもギラティナさんのはからいなのだ。
編み終えたアイビーの花冠を手に立ち上がろうとすると、コホコホと、ノアが咳をした。
「ノア、大丈夫? 最近具合悪いみたいだね…」
ノアに駆け寄って背中をさすろうとした足に、いつのまにかアイビーの蔦が絡んでいた。 それを振りほどいてノアの側に歩み寄ると、頭痛とともに、カーン、と、どこか遠くで聞き慣れた音がした。
アイビー (死んでも離れない)
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