リナリア

 はしゃぎつかれた私の「おやすみなさい」に小さく頷いて、大きな一つ目を優しく細めると、ヨノワールはゆっくりと外に出て行った。がちゃり、と重苦しい施錠の音が響く。
 彼がそばにいないことは不安だったけれど、彼が私を危険な目に合わせるわけがない、という信頼の方が大きかった。
 その日私はぐっすりと眠った。
 霊体なのにぐっすり、というのもおかしいかもしれないけれど、全てがうまくいきそうな安心感に、まるで生きていた頃のように眠れたのだ。魂だけの私なんて眠っている間に消えてしまっているかもしれない、という不安さえ忘れて。
(ヨノワールがいてくれるから、大丈夫)
 私をベッドに寝かせて、優しく布団をかけてくれた彼を思い出す。
(ヨノワールなら、私のことを守ってくれる)
 部屋を出ていくヨノワールの後ろ姿は、何度もバトルで信頼を寄せた、あの背中のままだった。
 
***

 がちゃり。錆び付いた重たい金属が触れ合う音がして、部屋の扉がゆっくりと開く。ぽっかりと暗闇が口を開ける。
 ヨノワールが、帰ってきたのだ。
「おかえりなさい!」
 闇から溶け出すように明るい部屋へ姿を現したヨノワールに駆け寄る。
 ヨノワールは扉を閉めて、何かを確認するように部屋の中をきょろきょろと見渡すと、私の方に向き直り手を差し出した。
「これは…?」
 彼の大きな手の中にあるのは、一輪の花…儚げに俯いた紫色の花が、身を寄せ合うように咲いた花だ。
「これ、私にとってきてくれたの?」
 私が尋ねると、ヨノワールは気恥ずかしそうに目を逸らす。彼には昔から、恥ずかしい時には決まってこっちを見ないという分かりやすい癖があった。
「ありがとう!大事にするね」
 花を壊れ物を抱くようにそっと抱きしめると、私はベッドサイドの一輪差しを探す。この部屋はどうしてか生前の私の部屋と全く同じ作りになっていたから、花瓶は容易に見つかった。
 下の方についた花が千切れ落ちないように、丁寧に花瓶に差し入れる。途端に、ベッドサイドが、ぱっと明るくなったように思えた。
 そうだ、お水はどうしよう、と思っていると、コポコポと花瓶の中から音がする。覗き込むと、きらきらと反射する液体が底から湧き上がり、花瓶を満たしていた。
 振り返ると、ヨノワールがじっとこちらの様子を伺っていた。目が合うと、ぱっと視線を逸らされる。恥ずかしがるようなことなんて、今の場面にあっただろうか?と、私は首を傾げた。

リナリア
(私の恋を知ってください)

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