デンリュウは、その言葉とともに私の手にふっかつのタネを3つ握らせる。
(ふ、不吉だ…!)
だがデンリュウの言いたいことは分かる。ジラーチの寝起きはとても悪く、以前一戦交えたことも実際にあるのだ。あの時は確か、ふっかつのタネを4つ消費したのだったか。
(デンリュウが行ってくれればいいのに…)
先程もらったものとは別に、念のためふっかつのタネを2つ道具袋に詰める。
そして、恐々3階への階段を上った。
「すー…すー…」
「ジラーチー…おーい…」
起こそうとし始めて数分が経つ。何度も声をかけたり揺り動かしたりしているのに、今日は全くなんの反応もない。
(珍しいな…前は声かけただけで、なぜかバトルに突入したのに)
ひらひらした布のようなもので体を包み、穏やかに寝息を立てるジラーチ。ジラーチの顔立ちは幼く可愛らしく、散々いろんな人たちに「子どもだから」と言われてきた私やパートナーよりも、余程子どもらしく見える。
「ジラーチ、起きないの?」
「むにゃ…起きないの…」
突然の返答に驚き、身構える。しばらく経っても攻撃が来ないことを確認してから、構えを解く。
「ジラーチ、起きないならちゅーしちゃうよ?」
どこかで聞いたようなセリフを、ふざけて言ってみる。下手したら攻撃されそうで怖いけれど、起こさなきゃいけないんだからそれも仕方がない。これだけ怖い仕事をしてるんだから、ちょっとくらいいたずらをしたっていいだろう。
「んー…ナマエなら…いいよ…」
「えっ!?」
思考が止まる。いいの!?いや、よくないでしょ!と、数秒間の間に激しい脳内会議が行われる。
いたずらを仕掛けたつもりが、こんらんがえしをくらったような気がした。
「んー?ナマエ、ちゅーしないの…?」
ふわふわと寝ぼけた声で、ジラーチが尋ねてくる。
「えっ、いや、あの…!」
「ナマエがしないならボクがするよ」
ジラーチは寝ぼけた様子でふらふらふよふよとこちらへ近づいてくる。
「…!」
顔が近づく。頬と額に熱が集まる。
堪え切れなくなって目をつぶった。
…感触がなかなかやってこない。
うっすらと目を開けると、そこにはぱっちりと開いた目で、震えながら笑いを堪えているジラーチがいた。
「だましたの!?」
「だ、だって、ナマエがいたずらしかけてきたから」
ジラーチの声は笑いで震えている。
「ひどいよー!」
「ごめんごめん!」
私が悲痛な声を上げると、ジラーチは反省しているのかいないのか、けたけたと軽やかに笑いながら謝る。
「おわびに、はい!」
頬に柔らかい感触を得て、私は硬直した。状況を把握して、再び顔に熱が集まる。
「これで仲直り、ねっ」
たまたま階段の下を通りがかったパートナーがこのやり取りを見て茫然としていたことは、誰も知らない。
いたずらなあなたに
こんらんがえし
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