「…よし」
パートナーがぐっすり眠っているのを確認して、音を立てないようにこっそり部屋を出る。
目指すはデンリュウの部屋。もっと言うなら、デンリュウの部屋のベッド。というか、デンリュウだ。
静まり返った廊下に、私の足音がひたひたと響く。
(今日こそデンリュウに、私の気持ちをわからせなきゃ)
私はデンリュウが好きだ。そして、私は意外と行動派だ。
なんどもなんどもデンリュウに気持ちを伝えてきたけれど、子供の言うことだからと本気にされていないのか、のらりくらりとかわされてばかりだった。
(今日こそ、既成事実を作ってやるんだから!)
方針を変えた私が思いついたのは、ざっくり言うと、夜這いだった。
極力足音を抑えながら、階段を上がる。他の団員たちに気付かれて引き止められでもしたら、作戦は失敗だ。
二階につき、左右を確認してから、こそこそとデンリュウの部屋に向かう。
(デンリュウは……いた!)
部屋の入り口に隠れて中を窺うと、部屋には日中にはない藁のベッドが設置されていた。その上で、こちらに背中を向けて横たわるデンリュウ。
(寝てる…のかな)
デンリュウの背中が呼吸するたび上下するのを見ていると、妙な安心感に時間を忘れて見入りそうになる。
(いけない!私の目的は見にきただけじゃないのよ!)
部屋に入り、そっとデンリュウのベッドに近寄る。こちらからは顔は見えないけど、上から覗き込んで、唇を…
「おやおや、何してるんですか」
「!?」
聞き慣れた声が耳元でしたかと思うと、私の体はひょいっと持ち上げられる。
「うわわ!デンリュウ!」
デンリュウは、私を持ち上げて自分の前におろすと、ぎゅっと抱きしめた。
「やれやれ、悪い子ですね、団長の寝込みを襲ってクーデターですか」
「ち、ちがうよ!」
とんでもないことを言われ、このままでは調査団を追放される!と慌てた私は否定する。
「冗談ですよ、さみしかったのでしょう」
「そ、それも、ちがう…」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ、ほら、ぎゅー」
「ひゃああ!」
極秘の作戦だったはずが、いつ気付かれてしまったのか。いつのまにか、私は完全にデンリュウのペースに乗せられていた。
「デンリュウ、わたし、本当に…」
あなたのことが好きなんだけどな、と紡ぎかけた口は途中で固まってしまう。
(今は、まだいい。届かないとしても、はぐらかされるだけだ。否定は、されないんだから)
(今までデンリュウが私のことをのらりくらりはぐらかしてきたのは、彼なりの、優しさだったんじゃないのか?)
考え始めると、体が凍ったように動かない。たくさんたくさん準備してきた言葉たちは、喉につっかえて声にならない。
黙ったまま震え始めた私に気づいたのか、デンリュウがそっと息を吐いた。
「やれやれ、困りましたね」
その言葉に、こらえていた私の涙腺が一気に崩壊しそうになる。
やっぱり、私なんかの告白、デンリュウは迷惑だったのか…
「私も理性で大人としての体裁を守ろうと思っていたのですが、困ったものです」
耳元から降ってきた優しい声に、息をのむ。
「もう少しでいいですから。私は待っていますから」
「デンリュウ…?」
「はやくオトナになってくださいね、私のためにも」
「!!」
恐る恐るデンリュウを見上げると、初めて見るような妖しげな微笑みがそこにあった。
顔に熱が集まる。こんなに密着していたら、動悸が伝わっちゃうんじゃないか。
それよりもなによりも。
(さっきの言葉は…!)
「わ、わた、し、帰ります!」
「はい、ゆっくりおやすみなさい」
デンリュウの腕から逃れた私は、他の団員たちに見つからないようにすることも忘れて、バタバタと自分の部屋に駆け戻ったのであった。
のんきなあなたに
ゆうわく
(んあー…あれ、ナマエどこ行ってたの?)
(トイレ!!!!!)
(!?う、うん)
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