いがいなあなたに
 雷雨の夜。
 窓から鋭い光が差し込んだ直後、地響きのような音が轟く。

「う、うわあああ!」

 ナマエとパートナーが眠る部屋に、外から悲鳴が聞こえてきた。
「い、今のってブイゼルの悲鳴?」
 パートナーが飛び起きて、目をぱちくりさせながらナマエに尋ねる。
 ナマエも驚いて飛び起きたようで、少し寝ぼけた顔のまま「たぶんそうだね」と答えた。
「いや、たぶんそうだねじゃなくって、行ってあげなよ!彼女なんでしょ!」
 パートナーが、半分呆れて半分慌てたような表情でナマエをせっつく。
「あっ、そういえばそうか…悲鳴だもんね、何かあったのかもしれないね」
 ようやく目が覚めてきたのか、心配げな顔でナマエはベッドを降りた。
「私ちょっと見てくるよ、パートナーは寝てていいよ」
 そう言い置くと、ナマエはブイゼルの部屋へと駆け出した。

「ブイゼル!無事!?」
 ナマエがブイゼルの部屋に駆け込むと、ベッドの上にブイゼルはいない。その代わり、部屋の隅で震える人影を見つけた。
「…ブイゼル?大丈夫?」
 ナマエが傍に歩み寄って尋ねると、ブイゼルはうずくまって震えたまま勢いよく首を横に振った。
「お、オレ、雷にがてなんだ、ほら、タイプ相性的なのもあるだろ」
 ブイゼルはしどろもどろになりながらナマエに説明する。
「タイプ相性はちょっと苦しい言い訳な気がするけど…」
 ナマエがブイゼルの背中に手を置くと、一瞬びくりと震えたブイゼルは、その長いしっぽをナマエの体に擦り寄せてきた。
(か、かわいい!ブイゼルはいつも頼りになる先輩だったけど、こんな面もあるんだ…)
 ブイゼルの新たな面を目にして、ナマエは内心嬉しかった。しかし、ブイゼルは目に見えてどんどん落ち込んでいく。
「ナマエにはこんなところ見られたくなかったよ…オレ、カッコ悪いな…」
 しょんぼりしたブイゼルの背中をぽんぽん叩きながら、ナマエはにっこり笑う。
「誰にでも苦手なものはあるもんね、ブイゼルはそれが雷だったってだけだよ。何もおかしくないよ」
「ありがとう…うわぁああ!」
 遠くで聞こえた雷の音に、ブイゼルの震えが大きくなる。
「大丈夫だよ、私がついてるから。いざとなったらブイゼルの代わりに私が戦うよ!」
 ナマエのどこかずれた励ましに、ブイゼルは少しだけ落ち着きを取り戻す。
「ナマエ…頼む、今日は一緒に寝てくれないか…?」
「もちろんいいよ」
「…!ありがとう!」
 いつもかっこいいところばかり見てきたブイゼルにうるんだ目で見上げられ、ナマエの胸が高鳴る。
(ギャップでやられるって、こういうことなのね…)
 
「うう、もう雷落ちないかな…」
「大丈夫だよ、きっともう雷雲あっちに行ったからね」
 二匹で寝るには狭いベッドの中で、ナマエにしがみついて震えるブイゼル。ナマエはそんなブイゼルを抱きかかえて、背中をぽんぽんたたいて落ち着かせていた。
「大丈夫、大丈夫。ほら、あったかいねー」
 子どもをあやすような口調に、ブイゼルは恥ずかしさで顔が熱くなる。
 ナマエの前ではいつもカッコいいオレでいたかった…と思う反面、ナマエの前ならば強がらなくてもいいような気もするのはなぜだろうか。
 とんとんと背中に触れる感触と、雨の音が溶け合う。底冷えする寒さの中、ナマエの体温が心地いい。

 恥ずかしさと妙な安心感の中、ブイゼルは目を閉じた。

いがいなあなたに
ばつぐんヒット

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