「むぐっ…」
うつらうつらしていたオレの顔に、眠る彼女の綺麗な蹴りが決まったのが、今である。
ぼとっ、とオレは間抜けな格好でベッドからずり落ちる。ベッドの外にオレを蹴り出す形でぴーんと伸びた彼女…ナマエの足は、オレが床に落ちるとするすると布団の中に戻っていく。
(わざとやってるんじゃないだろうな…)
落ちた時に打った腰をさすりながら起き上がる。のそのそと藁のベッドの上に乗り上げると、すぐ目の前にナマエの寝顔が迫る。
(…おー…)
ナマエの柔らかそうな口元が少し開いて、寝息が漏れている。閉じた目は、控えめで愛らしいまつげに彩られて、とても…
「か、かわいむぐっ」
心の声が漏れそうになった途端、見計らったかのように今度は顔面へのパンチ。ベッドからはみ出してバランスを崩したオレは、再びぼてっと床に落ちる。
ベッドから落ちた直後、オレのいたあたりで、シュッシュッとシャドーボクシングが行われているのが見えた。
(落ちといてよかった…)
ベッドの上からは相変わらず穏やかな寝息が聞こえている。
(ジラーチ並みに乱暴な寝相だな…もっとこう、なんだ、寝ぼけてぎゅってしてくるとかを期待してたのに)
また殴られてベッドから落ちることを予期しながらも、オレはベッドに這い上がる。
朝起きた時オレがベッドにいなければ、意外と寂しがりなナマエはきっと悲しむだろう。いっしょに寝ようと甘えてきてくれた、愛しいナマエを悲しませたくはない。その気持ちだけが、オレを再びベッドに向かわせたのだ。
…これが敵なら迷いなくしばられのタネ投げてる。
「むぐっ」
登り終えようというところで頬に容赦のないキック。キックについでさらにパンチ。しかしオレは諦めない。
ナマエの横に潜り込んだオレは、ぎゅっとその体を抱きとめた。
(よし、これでナマエは手も足も出ないだろう!…決してやましい気持ちはないが)
心の中で誰にともなく言い訳をしながら、ようやく訪れた平穏にほっと息をつく。
ほんのりあたたかくてちいさな体を抱いて、オレはゆっくりと目を閉じた。
あばれるあなたに
しばられのタネ?
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