せっかく女の子の新入りが入ったのだからと、デデンネの考案で一晩だけの部屋替えが行われたのだ。
ナマエのベッドは、二人の先輩調査団員に挟まれたど真ん中のベッドだ。
「たまにはこういうのもいいね!川の字で寝るなんていつぶりだろうね」
ベッドの上ではしゃぐデデンネに、端に寄せた資料の山がちょっと危ないけどね、とクチートが苦笑いをする。
(最初はちょっと…いやかなり緊張したけど、先輩たちがこんなにフレンドリーな人たちでよかった)
ナマエはそっと胸を撫で下ろす。今頃パートナーは男子部屋で楽しく話している頃だろうか、とナマエはぼんやり考えた。
「せっかくだから眠たくなるまでお話ししましょうよ!ナマエの出身地の村のことが聞きたいな、団長も良いところだって褒めてたし」
デデンネがさっそくナマエに声をかけた。気配りのできる先輩らしく、新入りのナマエが話しやすいような話題を選んで振ってくれたのだろう。
「それは確かに気になるね、おだやか村はどんなところだったのかな?」
「おだやか村は、とてものどかで優しいところだよ。あとで二人の話も聞かせてね!」
先輩二人の好奇心に応えて、ナマエはおだやか村のことを話し始める。
(アバゴーラさん…コノハナさん…先生たち…みんな、元気かな)
しばらくの間お世話になっただけだというのに、あんなにもあたたかく見守ってくれた村の人たちのことを思い出して、ナマエは少しだけ目頭が熱くなる。
(みんなに、もっと、あの素敵な村のことを知ってもらいたい)
その一心で、ナマエは村で起きたたくさんの出来事を話す。二人の先輩たちは興味深げに、時折笑ったり驚いたりの反応を見せながら、熱心に聞いていた。
記憶のないナマエにとっての唯一の故郷であるおだやか村…大好きなおだやか村のことだ、話はまったく尽きなかった。
ナマエの村の話から先輩たちの調査団の話に変わり、町の人たちとの交流の話に変わり、最近たべた珍味の話に変わって…およそガールズトークとは言えないような話題ばかりだったけれど、やはり女の子同士の話は盛り上がる。
気づけば夜も深くなっていた。
ふわわ、とあくびが漏れる。それを見たクチートとデデンネもあくびをこぼし、顔を見合わせて笑う。
「楽しく話してたらもうこんな時間だ…そろそろ寝ないとね」
クチートの言葉に頷きあって、皆それぞれのベッドにもぐりこむ。
「それじゃあ、おやすみなさい!また明日も頑張ろうね」
こうして、楽しい夜は終わりを告げた。
…はずだった。
「ううん…ぶつぶつ…」
ナマエは、右横から聞こえる寝言によって、寝入りばなを起こされてしまったのだ。その後もずっと、ナマエは寝言が気になって眠れずにいた。
(クチートの寝言…聞き取れないこともないけど、内容が難しすぎるよ…)
時折聞こえてくる単語は耳慣れないものであったり、どこかの知らない地名が混ざっていたり、聞こえたとしてもナマエには到底理解できないものばかりだった。
(うーん…クチートはなんの夢を見てるのかなぁ)
「クチート、お仕事してる夢を見てるみたいね」
「!…デデンネ、起きてたの?」
心を読んだかのように突然聞こえてきた声に、ナマエは一瞬狼狽える。
デデンネは、「こんなに大きな寝言だとね」と苦笑いを返した。
「クチートの仕事って、考古学者だよね?」
「そうだよ。クチートはいつも、調査に関わる古代の文献を解読してくれているの」
「古代の文献を…!すごく賢いんだね、クチートって!」
デデンネとナマエは、顔を寄せて囁き合う。隣で眠っているクチートは、その間も何か難しそうなことをつぶやいている。
「そうね、でも、少し熱心すぎるところがあってね」
だから今も夢の中でお仕事しようとしてるのね…と、デデンネは心配そうにクチートを見やる。
「なるほど…いつもがんばってくれてるんだから、寝てる間はたっぷり休んでほしいよね」
ナマエの言葉に、デデンネが頷く。そして、何かいい方法はないものかと、二人して考え込んだ。
「うーん…すいみんのえだ」
「!?」
額にしわを寄せて考え込んでいたデデンネが、ぽつりと呟く。
「つ、つかうの?クチートに?」
「うん、もしかしたら眠りが深くなるんじゃないかなぁって」
デデンネはそう言うと、ベッドの傍に置いてあった自分の道具袋をごそごそと探し始める。ナマエはおろおろとそれを見守る。
「あ、あった」
「そ、それはちょっと、危ないよ!下手したら朝目が覚めなくなるかも!他の方法をさがそうよ!」
デデンネが枝を取り出そうとするのを見て、ナマエは慌てて止めに入る。その拍子にデデンネが袋を取り落としてしまい、袋の中からばらばらと道具がこぼれ落ちた。
「ご、ごめん」
散らばった道具を拾おうとしたナマエの手に、透き通ったひとつの球が触れる。
「…あっ、それは!」
デデンネの言葉とともに、部屋中に強い光が放たれる。
一瞬の後、その部屋に静けさが戻った。
◇◇◇
「おや、今日は女性たちがお寝坊さんですね」
朝食の時間になっても、クチートとデデンネ、ナマエが降りてこない。不思議そうにデンリュウが首をかしげる。
「せっかく女の子同士集まったんだから、夜更かしして喋ってたんじゃないか?寝かしておいてやろうぜ」
「そうですよ!それよりごはん食べましょうよ!」
アーケンの言葉に、ペロッパフが頷く。
「まあ、たまにはゆっくり休むのもいいかもしれませんね。みんな、いつもよく頑張っていますから」
デンリュウも頷き、先に起きてきた人たちだけで朝食を取ることになった。
◇◇◇
女子部屋の中で、一番早くに目を覚ましたのはクチートだった。
「二人とも、朝だよ、起きて」
他の二人に呼びかけても、全く目を覚ます気配がない。
「ナマエはよくわからないけど…デデンネもこんなに朝が弱かったか?」
クチートは首を傾げながら、揺り起こそうと二人に近づく。
「えっ」
二人の足元には、散らばった道具。中にはこんらんのえだやばくれつのタネなど、危険な物もある。
「わ、ワタシが寝ている間に何があったんだろう…まさか、喧嘩とかしてないよね…?」
自分の寝言をきっかけにして起こった事故だとは、寝ていたクチートには知る由もなかった。
がんばるあなたに
バクスイだま
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