抱きしめられている。そのことだけが分かった数瞬間後、私の顔は赤く熱を持つ。 「わっ、か、カルム君?」 「ごめん。…本当にごめん」 それは、突然抱きしめたことに対してなのか、それとも他の何かなのか。のんきに眠っていただけの私には、カルム君の気持ちは分からなかったけれど、カルム君が泣いているような鼻声なのは分かった。 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」 研究員さんが復元してくれたという、元金色の石…お父さんの遺してくれたポケモンの入ったモンスターボールを握りしめると、それは応えるようにわずかに揺れた。 「これからはフルサトも一緒だから」 「でも…オレは…!」 私の言葉に、とうとうカルム君は何かが決壊したように泣き出す。私は躊躇しながら、そろそろと、その背中に手を伸ばした。 細い。私には大人っぽいカルム君がとても遠い存在に見えていたけれど、彼はこんなにも近くて、私たちと同じくらい幼くて、弱い存在だったんだ。 そしてカルム君は、ぽつりぽつりと話し始めた。私たちが引っ越してくる時に、私が記憶を失った事情を、カルム君の一家だけは聞かされていたこと。その上で、私を守ろうとしてくれていたこと。自分が迂闊に採掘場に誘ってしまったせいで、辛い記憶を呼び覚まさせたこと。 泣いて謝りながらも、カルム君は私のことを決して離そうとはしなかった。そのぬくもりが嬉しくて、でもたった一人の子どもにそんなことを背負わせてしまっていたことが情けなくて、友だちなのに気づけなかったことが悲しくて、私も泣いた。 病室には、しばらくの間、二人の泣き声が消え入るように響いていた。 「それで、ナナシは、次はどうするんだ?」 泣き疲れて泣き止んで、少し調子を取り戻したカルム君が、私に尋ねる。 「ショウヨウジムに挑戦してみようかなって、思ってるよ。せっかくここまで来たんだもん」 「うん、じゃあ、オレも行く。…一緒に行っていいか?」 「えっそ、そんな、一人で大丈夫だよ!」 カルム君は、私が記憶を取り戻す前よりも過保護になっている気がした。それが本当は嬉しかったのだけど…嬉しくて、私はなぜか断ってしまっていた。 「カルム君はどうするの?」 「オレも各地のジム巡りしようかなって思ってるからさ」 バカ!なんで断ったの私のバカ!半泣きで私は、そうなんだ頑張ってね、と言う。ワンチャンあったかもしれないのに…って、私は一体何を考えているんだろう。相手は友だちだぞ、友だち。 「なあ、ナナシ」 「ひぇっははは、はい?!」 邪念を振り切って返事をすると、カルム君はそれを見て、どうしてか愛おしそうに笑った。 「キミは強い人だ」 「え…?」 「それだけ。それじゃあオレは、キミが目覚めたこと、ジョーイさんに伝えてくるよ」 カルム君の言葉の意味が飲み込めない私は、ただその場に取り残されるのみだった。 <* | #> しおり+ もどる |