まっさらの姫君 | ナノ
ロ最悪のデジャヴ


「おやあ?あらま?ものずきなトレーナーがやってきちゃったよ」
 くねくねと入り組んだ輝きの洞窟を進んでいると、赤いスーツの謎の人物に出会った。カルム君は私を手で軽く制して、その人物から距離を取るように目で合図する。
「いいか!おれらは泣く子も黙るオシャレチーム、フレア団!」
 聞いたことのない名前に、頭の中が疑問符でいっぱいになる。
 しかし、次の瞬間、そのスーツの人物の発言で、私の中の何かがキレた。
「フレア団の目的は、俺たちだけがハッピーになること…そのためなら他のトレーナーやポケモンがどうなってもいいのさ!」
「は…?」
「あんた子どもでしょ?まだ消えたくないでしょ?」
 フレア団と名乗ったチンピラが、偉そうに私を品定めするように頭の先からつま先までを見る。
 採掘場…怪しいチンピラ…私は、ひとつのことを思い出していた。
「…ナナシ?どうしたんだ、顔が真っ青だぞ」
「…失せろ」
「どうした、ナナシ!」
「失せろ!!」
 私を心配して背中に手を添えてくれたカルム君を、記憶と共に振り払うようにして、乱暴にチンピラに向かって駆け出す。構えたボールは、テールナーのソル。
「ナナシ!」
「ソル、行って!」
「おしゃれなスーツも汚れるスマートじゃないやり方だけど、消し去ってやるさ!行けっデルビル!」
 私の怒りに呼応したのか、ソルの炎はいつもよりも苛烈さを増し、敵のデルビルをいとも簡単に飲み込んだ。

「おこさまの癖に強いポケモントレーナーだ…だけどよ、フレア団は俺だけじゃないんだぜ」
 チンピラを一方的にのした後、チンピラは捨て台詞のようにそんなことを言う。嫌な予感がした。
「カルム君、奥へ進もう」
「あ、ああ…でもナナシ」
「私なら、大丈夫だから」
 採掘場。チンピラ。爆発。そして残ったのは…
 ズキン、と痛みを感じて、私はその場にうずくまった。
「根絶やしに…根絶やしにしてやる」
 優しく手を添えてくれたカルム君は、もうそれ以上は、何も言わなかった。

 奥へ進むと、案の定先ほどのチンピラと同じ格好をした奴らがごろごろといた。
「あんたらフレア団がハッピーになるなら止めない。…だけどオレたちを消し去るなんてなに言ってるの?って感じだよね」
「カセキを復活させれば良い儲けになるのよ!」
 チンピラが足元の化石を蹴って、ごろりと転がす。それを見た私は、考える間もなくチンピラに殴りかかった。
「ナナシ!危ない、ナナシ!」
 口の端から血を流したチンピラが、私の首を絞めてくる。かろうじて届いたボールのボタンを押すと、白い光と共にミサオが現れて、はっけいでチンピラを吹き飛ばす。
「げほっ…ごほっ」
「大丈夫か?」
 チンピラ全員を暴走気味に倒した後、私はその場に膝をついた。くらくらする。
 採掘場。チンピラ。爆発。残ったのは。ああ、お母さんの言っていた、「二人で」の意味は。
 全てを理解してしまった私は、疲労に身を任せて、ゆっくりと目を閉じた。

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