地繋ぎの洞窟を越えると、そこは8番道路だった。 「お待ちなさいな!」 聞き覚えのある声に突然呼び止められて、驚いて振り返る。そこには、ジーナさんとデクシオさんがいた。 「あはは!驚かせてゴメン。テールナーもきみも元気?」 デクシオさんは爽やかな笑顔で手を振りながら、ジーナさんはあの上品な礼をしながら、私に話しかける。 「広大なカロス地方を一つの地方図鑑だけでカバーするなんてなんてこと!って思わない?」 「ということで、ポケモン図鑑をパワーアップさせますね!」 デクシオさんが機械慣れした動作で私のポケモン図鑑を操作する。すると、コーストカロス図鑑が追加された。 わぁ、この世にはまだまだ出会ったことがないポケモンがいるのかぁ、と私はのんきなことを考えながら図鑑を受け取る。 「新たな出会いが、人とポケモンを成長させるの!…それではおいとまするわ、ボンヴォヤージュ!」 「ぼ、ぼんぼんやんじゅ!」 なにやら難しい挨拶を口にして去るジーナさんに挨拶を返す。デクシオさんは笑いながら手を振って、去っていった。 コウジンタウンに着くと、随分とこざっぱりした土色の風景が広がっていた。 「お隣さん」 カルム君の声がして、振り返る。 「ここがコウジンタウン。水族館を通り抜ければショウヨウシティだよ。…まあ、オレはカセキ研究所でカセキの話を聞くけどね」 化石…と言われて、ふと鞄の中の、生物のあたたかみのある金色の石のことが思い浮かんだ。これもカセキ研究所で見てもらえば、何なのかが分かるかもしれない。 「メガシンカに関わる不思議な石のことも分かるかもしれないし」 「そうだね!…私も、行っていいかな?」 「ああ、行こうか」 カルム君は鞄を背負い直すと、カセキ研究所に向かって歩き出した。 「ほら、着いたよ」 「!ようこそ!カセキのロマンに導かれた学究の徒たちよ!」 カルム君の声に反応して、奥から研究員の人が出てくる。白衣に眼鏡といったいでたちは、なるほど研究員にはお似合いだった。 「オレはカルム、こちらはナナシ。…いきなりですが、メガシンカについてなにかご存知ですか?」 「おぉ、キミたちがプラターヌ博士の!聞いていますぞ」 私がおどおどしていると、カルム君がてきぱきと話を進めてくれる。た、頼もしい… 「メガシンカねぇ…残念だが、不思議な石が関係する…それぐらいしか分かっていないのです」 少しうなだれた研究員は、次の瞬間には目に輝きを取り戻してこちらを見た。 「だがキミたち!彼の弟子ならポケモンのカセキは知ってるかね?」 来た!と思った。カルム君はなぜか心配そうな顔で、私を見つめている。 「は、はい、あの…実はそのことでご相談があるんです…」 「素晴らしい!さすがプラターヌ博士の弟子ですなあ!」 私がごそごそと鞄を探っている間に、研究員さんはどんどんひとりでにテンションを上げていった。 「そうなのです!カセキとは古代ポケモンの名残り!…して、相談とは?」 「あの…これを見てもらえますか?」 私は、旅をしている間中ずっと一緒だった。金色の石を渡す。それは飴のようにきれいで、黒っぽいなにものかの残骸が中に浮かんでいた。 カセキは古代ポケモンの名残り…そして、これは、私の記憶の、大切なものの名残り。 「これは…しばらく預かりますぞ」 突然真面目な顔になった研究員さんは、ぐいっとメガネを上げる。金色の石は相変わらずあたたかく光り輝いていて、私に何かを伝えようとしているようだった。 「うーん…せっかくだから、その間に輝きの洞窟の採掘場に寄っていくか?」 心がざわざわとして止められない。洞窟に行こう。洞窟の冷たい空気で頭を冷やして、静かな空間で何も考えずに、研究員さんの答えを待とう。そう思った私は、カルム君の問いに頷いた。 「ナナシ、ついていくよ。…その、心配、だから…」 深刻そうな顔をして心配してくれるカルム君の気持ちは、残念ながら今の私には分からなかった。 <* | #> しおり+ もどる |