「ナナシさん知っていますか?あの建物…バトルシャトーといいますが、トレーナーの修行場として有名なんです」 道で行き合ったトロバ君が、由緒正しそうな建物を指差して言う。 「カロス地方にいる8人のジムリーダーだって、ポケモンにもっと詳しくなれば、きっと勝てるはずです!」 「案内ありがとね、トロバ君」 「オレとキミで、どっちが強くなるか競争しないか?」というカルム君の言葉を思い出しながら、私は、よしっ、と気合いを入れてバトルシャトーに足を踏み入れた。 バトルシャトー内は比較的新しく綺麗な建造物で、中には見知った顔の人がいた。一つ目のジムバッジをくれた、あのビオラさんだ。 「あらナナシ、あなたの爵位は何?」 「それが、ここに来るのも初めてで、爵位というものがよく分からないんです…」 「えっ?爵位ないの!?あなたの強さなら持っていても全然おかしくないのに…!」 ビオラさんの大げさな驚き具合に、こっちも驚きながら、私は説明の続きを聞く。 「爵位っていうのはね、ここバトルシャトーで実力が認められた、一握りのトレーナーにのみ与えられる称号なの!」 要は、勝ち上がりシステムということなのか。それとも、爵位を手に入れるにはコネがいるのか。カルム君とのヒミツの約束のために強さを手に入れたい私は、うーん、と悩み込んだ。 「ビオラさん、こちらは?…おお!バグバッジをお持ちということは、ビオラさんに認められたトレーナーさんのようですね」 白髪の紳士が私に歩み寄り、上品に礼をする。 「はじめまして、わたくしイッコンと申します。あなたは?」 「ナナシと申します」 「…ほう!ナナシさんとな」 カロス地方に来てから何度か見かけたお辞儀の仕方を、見様見真似でやってみる。意外と様になっている気が、しないでもなかった。 「私が推薦しますから、ナナシに爵位を与えるというのは?強いトレーナーですから、きっとバトルシャトーのためにもなります!」 コネ、あった、ここに。助け舟を出してくれたビオラさんに感謝しながら、私はお願いしますお願いしますとバッタのように頭を下げまくった。 「ほう、なるほど…!ビオラさんの推薦でしたら、資格としては十分でしょう」 イッコンさんは整った白髭を撫で付けながら、私に言う。 「それに、わたくしもただならぬ何かを、ナナシさんから感じます…ナナシさん!バロネスの爵位を、今からあなたに授与しましょう!」 イッコンさんの鶴の一声で、私は爵位持ちのトレーナーとなることができた。これで、修行し放題ということなのだろうか。 「爵位をお持ちの方は、同じく爵位を持つ方々とここで勝負できます。バロネスは爵位としては一番下ですが、ここで勝負を繰り返し、勝つことで、爵位も上がります。…そうすれば、より高い爵位の方々があなたに興味を持ち、ここに集うようになるでしょう」 イッコンさんは丁寧にバトルシャトーの使い方を説明してくれた。しかし私の頭の中には、これからの修行の日々への期待しかなかった。 「分からないことがあれば、入口の二人にお尋ねください。…ではナナシさん、ビオラさん、失礼いたします」 「あたしも爵位を持っているの!サイコーの爵位を目指して、お互い競い合えたらいいよね!」 ジムリーダーの人も、爵位を持ってここに訪れることがあるのか。それはとても、良いことを聞いた。 「…ぜひっ!お願いしますっ!」 ビオラさんはカメラを構えると、「やっぱりあなた、ポケモンのことになると表情が変わるのね。サイコーよ!」と笑った。 <* | #> しおり+ もどる |