まっさらの姫君 | ナノ
ロ人それぞれの生き方


 カルム君との花火の妄想がなんとか消え失せてくれる頃、私はサナちゃんとバルコニーで心地良い風に吹かれていた。
「あのね…あたしね」
 サナちゃんは深刻な顔をして、私に話を切り出す。
「ナナシとおともだちになりたいの。これから見る花火…ナナシと一緒だから、一生の思い出にするね!」
 ひゅるる、どーん。大きな音を立てて、色とりどりの空の花が散っていく。散り際にきらきらと光を残していくのは、花火自身のためなのだろうか、見ている私たちのためなのだろうか。
「…はあ…すごかったね!絶対に忘れたくないから、心のアルバムにしまっとくよ!」
 花火が終わった後の高揚感の中で、サナちゃんは満面の笑みを浮かべてみせた。

「トリミアンのためのトレビアン花火!あなたたち、これでよろしいかな?」
 宮殿のご主人がバルコニーに駆け寄ってくる。
「…はっ!!」
「そういえば…」
「ポケモンのふえだよ!」
「そうそう、カビゴンを起こすためのふえを取りにきたんだよ」
 私とサナちゃんは当初の目的を思い出して、宮殿のご主人に事情を説明した。
「はあ…ポケモンのふえね…ほら」
 ご主人の指示で、執事さんがふえを取りに行く。
「ショボンヌ城の宝物だったポケモンのふえも、今では借金代わりさ。やはり金持ちのぼくとアイツでは、つりあわなかったのだ」
 宮殿のご主人は、小馬鹿にするように言う。しかしその声には、ほんの少しの寂しさが混じっているような気がした。
 そんなこと言ってるけど、本当は仲良くしていたかったんじゃないのかな…
「ほら」
「ポケモンのふえでございます」
「いいかい君たち!借りたものは返す!これ大事だからね!」
 借金のことで嫌味を言いたいのだろうか。よく分からない念を押すと、宮殿のご主人はバルコニーから立ち去った。
「サナ、いろんな思い出作りたいけど…あの人のことは忘れよーっと」
「宮殿を守る苦労は想像しかねますので…」
 執事さんの苦笑に、今度は私たちが困った顔を浮かべる番だった。
「そうだけど…そうだ、あの、執事さんは、メガシンカって知ってる?」
「図書室でそういった本を読んだ記憶があります。今で言うトレーナーが、不思議な石をかざすと、ポケモンがさらに進化したとか…よければご覧になってください」
 執事さんは丁寧に図書室までの道のりを教えてくれて、その上に何かを取り出した。
「これは私からです。ささやかなものですが、どうぞ…では失礼いたします」
 それは、「まもる」の技マシンだった。
 この大きな宮殿を守ること…それがあの人の生きがいなのだとしたら、そんな生き方も、あってもいいのかもしれないな。違う考え方の人と出会った時のためのプラターヌ博士の言葉を思い出しながら、私は一人頷いた。
「それにしても、今の人とショボンヌ城のご主人、お友達だったの驚き!」
 サナちゃんの言葉に、そうだね、と答えると、私はポケモンのふえに目を落とした。このレプリカのおもちゃを、私は確かどこかで見かけた気がするのだ。記憶を失う、ずっとずっと前に、英雄の使った道具として…
「カビゴンを起こしたら、ふえ返さないとね」
 サナちゃんの言葉に頷いて、私はまた、もやもやとする思考に蓋をした。

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