「ナナちゃん!あっちだって!…あれじゃない?」 見ると、山のように大きいカビゴンが、橋の上で眠っている。 「こりゃまたため息が出るほど見事に眠っちゃってますね」 「ほら!山のようだろ?完全に通行止めだよ。ほらだんな!ポケモンのふえ!」 町の人が、ショボンヌ城のご主人を急かす。 ポケモンのふえ…?どこかで、どこかで聞いたことがあるような…実物を見たら、思い出せるかもしれない… 「…ってあれもう持ってないんだっけ?」 「そうだね、渡しちゃったからね」 「というか取られたんだっけ…宮殿の主人に」 ようやく記憶の糸口を見つけたところに、拍子抜けする会話。しかし、取られたとはどういうことなのだろうか。 「え?え?なあにポケモンのふえって?」 「ざっくり説明すると、カビゴンを起こすにはポケモンのふえが必要なんだ…だけど、そのポケモンのふえは、パルファム宮殿にあるんです」 ショボンヌ城のご主人は、がっくりと肩を落として答えた。しかしサナちゃんはその程度ではへこたれず、むしろ希望が湧いてきたような顔をした。 「なーんだ、取りにいけばいいのね!ナナちゃん、行こうよ!パルファム宮殿は6番道路の先だし、それに宮殿なら、メガシンカのこと分かるかも!」 サナちゃんのポジティブ思考には、いつも驚かされる。私もそんな風になりたいなぁ、そうすればカルム君とももっと…そこまで考えて、はっと我に返る。確かにサナちゃんとカルム君は仲が良いが、どうして私はそれに嫉妬なんかしているんだろう。 「どうしたのナナちゃん、行こうよ!」 「う…うん」 私は複雑な思いで、差し出されたサナちゃんの手を取った。 私は6番道路を通り抜ける時にキルリアに進化したリンダを連れて、パルファム宮殿に辿り着いた。 「お二方、入場料1000円をいただきます!」 門番さんが早くお金をよこせと言いたげに、ずいずいと目の前に手を差し出してくる。 「ウソでしょ?お金とるのー!?」 「ご主人様はですね、お金はいくらあっても困らないという考えかたの持ち主でして」 「もうっ!こうしてお金持ちはどんどんお金持ちになるのね!」 サナちゃんの言い分はもっともだ。富裕層はどんどん私腹を肥やしていって、貧乏層は日々の暮らしだけで手一杯になる。…この宮殿を見ていると、それをむざむざと見せつけられているようで、外観は美しいのに少しだけ苛立った。 「はい、入場料1000円です」 「いただいたお金は宮殿の修復などに使わせていただきます…たぶんね」 ぐしゃぐしゃのお札を乱暴に渡すと、門番さんは意味深な「たぶんね」を残してお金を受け取った。 パルファム宮殿に入ると、恰幅のいい男性が、玄関先を喚いて走り回っていた。 「どこ!どこ?私のトリミアーーン!」 「ど、どうしたんですか!?」 「僕の愛しのトリミアンちゃんが消えたんだ!」 尋ねると、男性は半べそをかきながら私に言う。どうやらこの広い宮殿の中で、迷子になってしまったらしい。 「ナナちゃん!あたしたちも探そっ!!」 迷いのないサナちゃんの声に振り向くと、サナちゃんは真剣な顔で私をまっすぐに見据えていた。 「だってもし…自分のポケモンがいなくなったら、不安で心臓つぶれちゃう!」 サナちゃんは優しい。明るいだけではなくて、人のことを真剣に考えることもできるのだ。 誰一人欠けてはいけない自分の手持ちポケモンたちのことを思って、私もすぐに頷いた。 <* | #> しおり+ もどる |